第1章 第6話 「魔物襲撃!間に合わぬ便意!」

■1. 街に響く警鐘

 


それは、昼下がりのことだった。


ルグレッタの城門前、のどかな陽気とパンの香りに包まれた市場の喧騒が、一斉に凍りつく。


 


\カン! カン! カン!/


 


「っ! 警鐘!? 魔物だっての!?」


 


俺は咄嗟にリュミエールと顔を見合わせた。


遠くの地平から、巨体をうねらせて進む黒い影――魔物・ロックバグが現れた。


鎧のような外骨格を持つ巨大昆虫。突進力と装甲を併せ持つ、初級者には地獄のような相手だ。


 


「た、戦うの……? 今回も爆発するかもしれないのに!?」


「爆発どころか、今、俺、腹に来てる……!!」


 


魔物、迫る。


民は逃げ惑い、兵士たちは布陣を急ぐ。


そんな中――


 


「詠唱して!! 今しかないのよ!!」


「いやでも腹があああああ!!」


■2. 緊急詠唱、そして“混入”

 


俺は震える腹を押さえながら、声を張った。


リュミエールが後方支援に回る。矢を構え、俺の背中に魔力の風を送る。


そして――


 


「よし、いくぞ……! 俺の、腹を懸けた一撃!!」


 


【詠唱全文:混沌語彙魔法便炎螺旋爆裂詩(カオス・ブレイズ・ヴォルテックス)


「崩れし辞典(コード)の頁より、我は語る!」

「混ざり合う焦燥と焦熱、便意と勇気が交錯し、やがて産み出される爆風の真理よ!」

「痛みこそが言葉を鍛え、震えが我が文脈を選び取る!!」


「腹が……ヤバいッ!! でも負けないッ!!!」


「今こそ、放て!! 我が詠唱(ことば)と排泄欲求の融合ッッ!!」


《便炎螺旋爆裂詩(カオス・ブレイズ・ヴォルテックス)》!!


\ドグォォォォォォン!!!!!!/


 


爆発。


空が、焼けた。


大地が、揺れた。


ロックバグは粉砕され、まわりの木がバラバラに吹き飛び、門前の石畳にはパンツ模様の焼き跡が刻まれた。


 


……そして、俺のズボンも、びしょびしょになっていた。


 


「い、いや、違う!! これは汗!! 汗と……魔力の湿気!!」


 


「……あんた、また漏らしたわね」


 


「ちゃうちゃうちゃう!! 詠唱の混入成分や!!」


■3. 漏らし英雄、爆誕

 


民衆「おおおおおおおお!!!」

兵士「なんだ今の……勇者!? 詠唱で……あの魔物を!? 単独で!?」


 


「語彙術師、すげぇ!!」


「いや、あれは“神の詠唱”だった!!」


「うわっ、でも……なんか、臭くね!?」


 


リュミエールは苦い顔をしながら、俺の前に立つ。


 


「……もう……最低。でも、まあ……認めるわ。あんたの詠唱、すごかったわよ」


 


「いや、俺の腹もなかなかにすごかったよ……」


 


そんなやり取りを交わしながら、ふとリュミエールが足元で滑った。


 


\ズザッ/


 


「わっ!? きゃっ!!」


 


ドンッ!


 


気がつくと、彼女は俺の上に覆いかぶさる形で倒れていた。


ぬれた地面と、うっかり触れてしまった手と手、そして……至近距離。


 


「ちょっ……近い……っていうか……!!///」


 


「うん。わかる。まず、離れよう?」


 


赤面のまま、リュミエールが無言で頷いた。


その耳は、まるでさっきの爆発の残り火のように真っ赤に染まっていた。


■4. そして称号を得る

 


その日。


俺は、ルグレッタにおいてこう呼ばれるようになった。


 


【爆焔の詠唱者】

そして、裏のあだ名は――


【漏らし詠唱の英雄】


 


俺は空を見上げてつぶやいた。


 


「……腹が治れば、俺、たぶん……もっと強くなれる」


 


「なら、今のうちにおむつを買っておきなさいな、英雄様」


 


「ちょっとそれマジで検討しようかなって思ってる」


 

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