03

 会場に入ると、パイプ椅子が並べられていた。


 なんかあれだ、学校の説明会みたいな雰囲気……。


 いや、間違ってはないのか。


 一応、転校するわけだし。


 しかし……同年代、いねぇ〜。


 みんな小学6年生とか、5年生とかだ。


 あ、なんでわかるかというと……。


 椅子は区画ごとに分けられていて、小学6年生、5年生、4年生、そしてただ俺1人だけ、1年生と書かれた場所に座っているからである。


 でも、椅子が6脚ってことは、あと2組くるのか……?


 そんなことを思っていると、俺の隣に母親と思しき女の人と、男の子が座る。


 派手髪〜……でも地毛っぽいし、ハーフとかか?


 あ、もうひと組もきた。


 こっちは……日本人だ。


 でもめっちゃでかい。俺より20センチは大きいな。


 4、5、6年生の方に座っていても違和感ないぞ……。


 っていうか、俺こんなかで1番ちっちゃくね?


 一応、クラスの中では1番おっきいんだけどなぁ……。


 そんなことを考えていると、どうやら全員が集まったようだ。扉が閉じられる。


 それと同時に、静まり返る会場内。なんか、劇でも始まりそうな雰囲気だ。


 ふっと会場内のライトが消える。


 暗闇の奥の方で、スクリーンが降りてくるのが見える。そこに突然ライトが当てられ、一瞬会場内がざわついた。


「――初めまして。私は笹木部ささきべ勇吾ゆうご。このプロジェクトを一任された、最高責任者です」


 背後だ。


 俺はばっと振り返る。


 そこに立っていたのは、髭を生やし、ニヒルに笑う一人の男。笹木部勇吾と名乗った男は、静かに舞台へ向かって歩き始める。


「まずはおめでとう。君たちは、私が直接選んだ、日本のバスケットボール界を担っていくにふさわしいと思われる人間たちです。では……映像を」


 男が指を鳴らす。やけに響く音とともに、映像が再生された。


 映像はおしゃれなロゴから始まる。JBAのロゴだ。


 AKATSUKI JAPAN。日本バスケットボール協会のナショナルチーム……つまり、日本代表選手のことだ。


 AKATSUKI JAPANの紹介から、現状の日本のバスケットボール界の話……。つまり、弱体化の話だ。


 日本バスケットボール界は、弱体化している。


 とくに……ジュニアチームの弱体化は著しい。


 それは俺が成長しても止まらず……俺が大人になった頃には、俺の時よりも明らかにいた。


 いろんな原因はあるだろう。親の介入。優しいだけの指導者。バスケからの人離れ……。


 そのどれもが、時代が原因とも言える。


 このまま、日本のバスケは面白く無くなって行くのか……そんな不安を感じたのは、記憶に新しい。もちろん、未来の出来事だけれど。


『そんな未来を、変えたくありませんか?』


 ……おっと。いきなりポップ。


 ニュース番組の途中で挟まれるテレビショッピングのようなナレーションに、思わずぷっと吹き出す。


 笑っちゃだめ笑っちゃだめ……真剣なんだから。


 まぁとにかく要約すると……弱体化していく日本バスケットボール界を憂いて、若い有望な選手たちを協会で育成しよう……という話だ。


 U12が100人。U15が200人。U18が200人。


 総勢500人がこのプロジェクトに選ばれ、集められたようだ。


 映像が終わり、会場内が明るくなる。


「――と、まぁ、そんな感じです」


 笹木部勇吾が語り始める。


「私のことを知る人は少ないでしょう。しかし断言します。このプロジェクトに参加すれば、君たちは必ず強くなれる。そして、このプロジェクトをすべて完遂した人間には――日本代表への切符を、差し上げましょう」


 ――!


「日本代表!?」


 あっ、と口を塞ぐ。しかし驚きは会場内にも広がっており、俺の大声を気にする人はいなかった。


 しかし、500人全員が日本代表なんて馬鹿げた話はないはずだ。


 なにか、人数を絞る仕掛けがあるはずだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る