02
飴を舐めながら、リュックを揺らして家に戻る。
「ただいまー……って、あれ」
父さんがいる……。
こんな時間に珍しい。
父さんは基本的に18時くらいにならないと戻らないのに、珍しいこともあるものだ。
時間はまだ16時……うん、やっぱりまだ早い。
「帰ったか」
そんなことを考えていれば、父さんだ。
「ただいま、父さん。今日は早いね?」
「ああ……母さんから連絡があってな」
「え……母さんになにかあったの!?」
そんなこと、前あったか……? もしかして、俺がやり直ししてるから……っ。
「ああ、いや、母さんは大丈夫だ。今はトイレに篭ってる」
「あ……そうなんだ、よかったぁ」
妊娠中、便秘がひどかったとは母さんから聞いたことがある。
妹の妊娠中はたしかトイレによく行くなぁとは思ってたし、今日もそれみたいだ。
しかし……それならなんだ? 連絡って。
「お前宛てに。読んでみなさい」
渡されたのは、黒を基調とした、赤とグラデーションになっている封筒。この色……どこかでみたことあるような?
「これは? 父さんはこれくるの知ってたってこと?」
「まぁ、とりあえず中を見てみろ」
「うん……」
差出人は……公益財団法人日本バスケットボール協会……って。
「JBA!?」
日本バスケットボール協会、通称JBAは、日本のバスケットボールを統括する国内競技連盟だ。
そんなとこから、なんで俺に手紙が……?
『日本バスケットボール協会強化指定選手説明会のお知らせ』
「……へ?」
きょ……強化指定選手……?
「と、とと、父さん、これ、どういう……」
「しっかり読んだか」
「さ、最後までは読んだけど」
「分からないところは」
「分からないことだらけだよ!? なん、なんで俺が強化指定選手にっ……」
「さあな」
「おっ……落ち着きすぎだよぉ!?」
――要するに。
『どうも、日本バスケットボール協会でーす。君、強化指定選手に選んだから、この日に説明会きてね。あ、これは新しいプロジェクトで、日本のバスケットボールを盛り上げよーっていう感じだよ! U12、U15、U18の部門で集めてるからよろしくー』
と、いう具合である。
「え、えぇ……」
「その日は父さんが送って行く。……それと、友達にはお別れを言ってきなさい」
「え?」
「もう一枚紙がある」
「あ……ほんとだ」
……な、なるほど……?
要するに。
『こっちで全寮制の学校作ったから、転校してもらいまーす。嫌な人は来ないでね』
と、いうことである。
か、金賭けてるぅ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は夏休みの間に友人たちにお別れを告げた。
保育所の時から仲良かった智己くん。彼の転校ではなく、俺の転校でお別れをいうことになるとは思わなかったけれど。
それとガキ大将道久くん。彼にはいつも遊びに誘ってもらってお世話になった。ありがとう。
夏休みが終わり、最初の日。
本当は俺の引っ越し作業で転校まで休む予定だったのだけど、学校でしか会えない友達とお別れできるようにと母さんと先生の計らいで、俺はその日だけ登校した。
最後の登校日だ。
催されたお別れ会で、それはもうみんな泣いてくれた。
1年生ってこんなに情にあついんだ、ってくらい泣いてくれた。
俺もちょっとだけ泣いたのは秘密だ。
智己くんと道久くんも、俺の転校を知っていたはずなのに、しっかり泣いていた。
ついでに亜里沙ちゃんもちょびっと泣いていた。
ライバルが減ったわ! なんて息巻いてはいたけど、それはツンデレが過ぎる。やっぱり女の子の方が大人っぽいな。
――そして、説明会の日。
俺は、衝撃と出くわす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます