03

 うちのバカみたいに広い庭は、前世では小学校1年生のころに飼う予定の犬のためにドッグランとなった。


 それが今世では、俺のバスケットコートになるようだ。


 というか、なった。もうすでに。


「すっげー……」


 うちは父親の父親の父親の父親、つまりひぃひぃじいちゃんが持っていた土地だ。


 もともとは大きな平屋が建っていたが、それを老朽化が原因で取り壊し、父さんがじいちゃんの遺産金で2階の戸建てを建て直した。


 大きな平屋が建っていたってこともあり、うちは庭がバカみたいに広い。それこそハーフコートくらい余裕で入るくらいの。


 ていうか父さん、へそくりどんだけあるんだよ。


 そういやドッグラン作ったのも父さん提案だったっけ……もしかしてあれもへそくりか。


 いやー、ごめん、まだみぬヘリオン。お前のドッグランは俺のバスケットコートになってしまいました。


 雨の日もできるようにって、ご丁寧に屋根までつけてくれた。


 こんなに子ども思いだったのか、父さん。いやよく考えれば、俺が就職難でしばらくフリーターやってた時も、何も言わず「うちに来い」って、助けてくれたっけ。


 ……しかしほんとに金あるなー、父さん。


 まぁ父さんが経営してる定食屋も美味い美味いって近所で有名だし、成功してんのかねえ。


 親子といえど、そこらへんの話はなかなかしづらかったし、知らないんだよな。


 でも、たしかに前世でもそこら辺の子どもよりは裕福だったような気がする。


 最新ゲーム機も誰よりも早く買ってくれたし。


 恵まれてたんだなあ、俺。つまんない人生とか言ってごめん。


 そんなこんなで与えられたコートとゴール、ボール、シューズは、俺にとっての宝物になった。


 ボールは当然5号級。ゴールは高さを変えれるもので、今はミニバス用の高さにしてある。それにしたって、俺にとっては高いけど。


 シューズはランニングシューズだけど、滑らないようになってるちょっとお高いやつ。大切に履かないと。


 コートには規格通りの線が描かれていて、高さを変えられるゴールってところも加味すれば、大人になっても十分プレイできるだろう。


 さすがだな、父さん。俺が同じ歳のころは、何やってたかな、やっと見つけた就職先でポカやらかしてたかも。


 ……思い出したくないことを思い出した。


 とりあえず、今世での初めてのドリブルをしてみよう。


 ボールを持って、片手でつく。とす、とす、とす。


 ……うん、できそう。


 横では母さんが「すごい! 天才!」と俺を褒めそやしている。さらにその横の父さんは、母さんに言われてカメラを回していた。


 ちょっと強くドリブルをついてみよう。


「っあ!」


 しまった、足にぶつかってボールが飛んでいった。


 走ってボールを取りに行く。


 もう一回だ。


 とす、とす、とす。


 強く。


 どすっ、どすっ、どすっ。


 今度は上手くできた。


 てか、なんだこれ……めっっっちゃ楽しいんだが!?


 なにこれ、ドリブルしてるだけでめっちゃ楽しい!


 このまま歩いてみよう。


「っとと」


 あらぬ方向にいきそうになったボールの軌道をなんとか戻して、コートの端から端まで、ドリブルしながら歩いてみる。


 できる、できる!


 できるってこんなに楽しかったっけ……。


 前世の俺も、初めてドリブルがつけた時、こんな気分だったのかな。


 できるだけ指先を使ってボールを操る。フロントチェンジ……あ、ダメだできない。


 てんてんてん……とボールが転がっていく。


 まだ手が小さすぎるのか。まぁそりゃそうだよな、まだ6歳だし。


 でも……よく考えてみれば。


 知識がありながら、幼い頃から練習できるって、大きなアドバンテージなのでは?


 普通の子なら嫌がる地味な基礎練習だって、俺は嫌がらずに毎日続ける自信があるし……。


 もしかしたら、前世よりもバスケが上手くなって……いずれは強化選手なんかに選ばれたりなんだりして……。


 夢が膨らむなあ、これは。


 まぁそれも俺の努力次第……努力、努力か。そういえば、努力しようとするのはいつぶりだろう。


 ボールを手に取り、じっと見つめる。


 ――やってやる。


 今の俺なら、努力だって楽しめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る