第12話 疑問


事件が終わってから、一週間が経った。

理人は、警察署で変わらない日常を過ごしていた。


 


事件の報告書も提出し、

資料もすべてファイルに収まっている。


 


「……本当に、終わったんだよね」


 


理人は、書類を閉じて背伸びをした。

片桐は、隣のデスクでお菓子を食べながら、だらしなく笑っている。


 


「理人、また真面目な顔してんなー。

お前、もうちょっと肩の力抜けよ。

最近、顔怖いぞ?」


 


「えー、そう?

自分じゃ分かんないなぁ」


 


「飲みに行った時はもっとアホ面だったくせによ~」


 


「ちょ、それは片桐さんのせいでしょ?」


 


二人のやり取りは、穏やかで、どこか心地よいものだった。



昼休み。

理人は、署内の休憩スペースで、他の刑事たちと世間話をしていた。


 


「そういえばさ、あのゼミの先輩?

ニュースになってたよな~。

けっこうな話題になってんじゃん」


 


「へえ、そうなんだ」


 


理人は、興味なさそうに返事をする。

けれど、その後の一言に、思わず動きを止めた。


 


「なんかさ、海外から戻ってきたばっかだったんだろ?

1年くらい前まで、アメリカにいたって話じゃん。

それで、こっち戻ってきて、いきなり事件とか、マジ怖ぇって」


 


「……え?」


 


理人は、スプーンを落としかけた。


 


「それ、本当?」


 


「あ?ああ、確かにニュースで見たけど……何か気になる?」


 


「いや……別に。ちょっとびっくりしただけ」


 


理人は、笑ってみせた。

けれど、胸の奥で、何かが引っかかって離れなかった。


 


「1年前まで、海外に……?」


 


目の前の景色が、少しだけ歪んで見えた。



夕方。

理人は、一人署内の資料室でファイルを見つめていた。


 


「……もし、先輩が1年前まで海外にいたなら――

あの人が、あの“カフェの店員”を知ってるはず、ないよね」


 


でも、頭の中でその考えを振り払う。


 


「いや、待って……早とちりかもしれない。

確認しなきゃ、ただの思い過ごしだ」


 


理人は、ファイルを閉じて、深く息を吐いた。


 


「……こんな時、片桐さんだったら――」


 


その名前を口にした瞬間、

胸の奥に、ふっと冷たいものが走った。


 


「……なんだ、これ」



■第12話「きっかけ」 完!!!


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