いってきます。
泥道
1. 身支度
毎日9時前には家を出ていた日々が続いているから、休みの日だと言うのにどうしても朝は二度寝なんて出来なくて、もっと寝てたいし昨日夜ふかしもしたのに、朝の9時過ぎには目が覚めてしまった。家の中の活動音は無く、朝早い仕事の父はとっくに家を出ていた。母は…恐らく、好きなダンスグループのビデオを昨日もよく見ていたのだろう。朝食は勝手に好きなものを食べてね、というのがこういう時のお決まりだ。
何か自分で買っていたか思い返すものの思い浮かばない。仕方ない、朝から生クリームの詰まったメロンパンを食べてしまおう。
手に持った感触は重たく、この前食べたデザート販売店のものに比べたら倍はあるだろうそれを、やや甘いクリームを感じながら頬張り、予定のひとつもないまま何をして過ごそうかとぼんやりする。せっかくの休日もただ家で動画を見たり、好きなゲームを幾らか勤しんだりして満喫しても、どうしても暇な時間は出てくる…まあ、惰性で動画を見続けちゃうんだけど。
そこから3時間くらいは経っただろうか、ようやく母が起きた音がして、こんなに大きくならなくても良かったのに、とたまに思う身体を起こして部屋を出ては、寝起きでまだ頭が回っていないであろう母へ声を掛けに行く。
「おはよう、母さん。今日は何か予定ある?」
「……おはよ。んー…分かんない、今日は父さん早く帰ってくるらしいけど、あんまりお金使いたくないしさ」
「そうなの?珍しい…最近休みがようやく増えたし、仕事落ち着いたのかな。筋肉痛とか言ってたけど」
「どうだろうね、新年度が始まるまでに綺麗にしておきたいだろうし…新生活が始まってから作業はあんまりないんじゃない?余程予想より危ないと思ったところがないと、ネットを付けてくれなんて言わないでしょ」
「それもそっか。またなんかあったら呼んで?」
「はーい。あ、昨日の夜にお腹すいておかず作ったから、食べる?」
「食べる食べる、味噌汁も残ってるし、ご飯ももう少ないな…母さんの分も用意する?」
「私はいいや、お菓子あるし」
母のおかずは、味が濃くて時々しょっぱいけどこれに慣れて生活してきたから、市販のご飯やレストランの味が物足りないくらいになって、今や濃くて噎せるようなラーメンも大好きになったし、血の遺伝から醤油を何にでも掛けたくなるくらいの好みにもなった。今日はごぼうの醤油と豆板醤で炒めたもので、昨日の味噌汁と残りのご飯をセットで。量こそ少なくても、この味はご飯を沢山食べれて幸せだ。母はたまに沢山料理を出すことがあるけど、母の味付けなら品数が少なくても足りるくらいには美味しい。
時々美味しい、と独り言を言い過ぎて怒られるくらいにはこの味が一番好きだ。 そんな時間も30分あれば終わって、今日も感謝の印にパソコンをぼーっと眺めてる母の横顔にお腹をむにむに押し付けてやるのだ。
ご馳走様を伝えて、やっぱり部屋に戻る。幸せな昼食を食べた所で少しの眠気に襲われるが、この眠さは今欲しいものじゃない。明日のあることの時に持ってきて欲しい。
そんなことを思いつつ、ネットの友人からの返信が来たから、他愛ない話をして話せる時間は話し合い、返事が来なくなればお互いやることがあるんだと何も言わなくても会話をやめて。
そうすると、玄関の鍵が開く音がした。父が帰ってきた。
今日は出先で安くて美味しい野菜を取り扱ってる店で買ってくるって言ってたから気になってたんだよな、と思えば、部屋から出て後を着いていく。見るな、と笑いながら戯れつつ、しろなと丸くて美味しそうなナス、母のための苺なんかを買ってきた父の楽しそうな顔を見る。まさかの苺に喜ぶ母の顔も見る。本当に、こんなに楽しそうな母は前の父親では見ることは無かっただろう。
そんな話をしている中で、そういえば昨日水出しっぱだったぞ、なんて父から怒られてしまった。あれ、お風呂の蛇口は閉めたと思ってたのに…なんて思いつつも、まあそうなんだろうと謝罪の言葉を。
そこからまた、父と母はやることがあんまりない中でお互いのやりたいことをやりつつ、時々同じ血液型ゆえに小さな喧嘩をしながら話し合い、馬鹿みたいに笑う日々を過ごすのだろう。
そんな両親も、自分が何を思って過ごしてるかを打ち明けるには程遠い人だ。自分から心を打ち明けて伝えた時にはお前の甘えだと言い放つ母や、元父親からのお前が悪いという一度の暴力は忘れたことがない。今の父親はそんなことしないんだけど、話したら母にきっと相談するから、言えない。
だから、自分も部屋に戻って、いつもの休日を過ごすだけ。唯一過去の事、今の事、弱いところも全部知ってるのは、携帯に通知を届けてくれた顔も知らないこの友人だけ。とは言っても声なんか知らないから、相手からしたら迷惑に思ってるんだろうけどね。
動画、ゲーム、返事。それだけを繰り返しながら午後は過ぎていき、夜になったら美味しい野菜のご飯が食べたい、と思っていた矢先に、今日は外で食べよう、とのお誘い。
それならそれで、と皆で出掛けていき、今日は唐揚げを主にした料理店へ。
玉子とじ唐揚げ丼を大盛りで頼んで、母が食べきれなくなった分を自分が食べる。いつもの光景を繰り返して、美味しかったね、やっぱり味薄かったね、なんて話しながら車は帰路へ。
家に戻れば後はもう自由時間。廊下と居間への扉の先から、また父が何かやったらしい母の笑い声を聴きつつ、自分は明日のための準備をする。
充電器、ヘッドホン、Bluetoothのコントローラーの充電と、持っていく最低限の荷物。明日は仕事だと伝えてあるが、つい最近辞めたばっかりだ。給料日はすぐそこだが、財布の中に入っているお金を明日はぱーっと全部使うのだと決めている。 お風呂に入って、歯を磨いて、肌が痒い所に軟膏を塗って…必要なものは明日買ってから行けばいい。 今日も今日とて夜更かし、何時まで起きてようなんて計画は無くて、ただ見た事あるけど面白かったっけ?なんて動画を見ながら眠気が訪れるのを待つだけ。
いつもの朝の時間には家を出て、使うものだけ買って、1人で過ごすための場所へ向かう。だから昨日今日の睡眠不足なんて気にしてないまま、3時を回ったところで意識を手放していく。
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