だらしなく泣いている。(未完)

小説。 だらしなく泣いている。(未完)




 最近、とても面白いことに気づいた。

不思議、不思議と何度も言っているものほど、わかりやすい。悲しい、悲しいというほど可笑しい。世の中は不条理なもので、そうなってほしい、そうなるようにすればするほどかけ離れていくものが多い。感動してほしい物は全く泣けず、何も感動的でない本当に何気ない場面で涙を流す。今まで形作っていたものがどんどんと遠ざかる。これを失うと生きていけない、なんて思っていたものほど、何も気にすることなく生きている。何かに固執する人間だと思っていたけれど、平気で物を捨てることが出来る。そんな人間だったのだと気付かされる。だから人間って面白いのかもね。


 と、元カノが言う。通話をしている。通話から聞こえる声は本人の声ではなく何万通りもある声から最も近い声が選ばれる。つまり相手は誰でもない存在なのだ。知らない人だった。僕はいつの間にか知らない人と会話をしている。だけど本人だ。その人の顔を保ちながら違う人なんだろうなと思った夢の中とは違う。その人の声ではないけれど、その人の思考で物事を見ている。そこが恐らくとても重要なことで、その本人であるということ。姿形がまるで違っていてもその人だと思えば例え全身やけどを負って顔を失っても好きでいられるはずなのだ。そこに愛があるのだから。


 と、簡単にまとめると世の中って、なんだかんだ感情で形成されているん「だなぁ」と気づく。なんでだなぁをかっこで囲んだかというと人は酔っ払うと語尾が強くなるからであって気持ちよく話している人の「だなぁ」が印象に残ったからである。僕は久しぶりに会った元カノと飲みに来てまあ、見事に記憶を飛ばしつつある。実況中継的に進んでいるから思い出せるのであって、この辺りの記憶は恐らくもうない。元カノは気持ちよさそうに「だなぁ」を言い続けてる。これ、今度、芝居で使えそうだなって思って僕も「だなぁ」を真似する。元カノも同じ人なのだからまだ少し好意くらい残ってても良いのになって思いながら、今日は行為できないだろうなぁと後悔する。


 少し肌寒いが着込むほどでもない春の夜風を浴びている。とても理想的な気温と体感温度。元カノは、自由奔放に辺りを見渡しながら酔っ払いを象徴するように歩いている。たった数時間で終わる1日だけの夜をずっと満喫しているかのように歩く。少し経ったらすぐに頭と体が重くなるのに、そんなことを忘れてしまったかのように楽しく歩く。噂とかと同じように、勝手に1人で、どこかまで行ってしまう。


 そんな噂を追いかけているうちに、1人になっていた。いつかの帰り道。少しの眠気と共に家に帰る。地下鉄に揺られている。混み合っていて、いろんな話題がぶつかり合っていて、日本語があらゆるところから聞こえてくる。全て聞きたくないことのはずなのに、耳を傾けてすらいないのに、脳内に侵食してくる。疲れた脳には、意外といろんな情報が入ってくるものなのだ。あらゆるところから今日が終わる「お疲れ様です」という声。明日もよろしくお願いしますという意味を含んだ「お疲れ様です」が響く午後8時の地下鉄。この時間が最も、嫌というほど現実を現している。具現化、承認欲求。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る