第37話 おはよう小鳥遊さん おはよう桐生君

《桐生家 朝》

「あっ……おはよう。小鳥遊・・・さん」

「……おはよう。士……桐生・・くん」


 朝、顔を洗おうとして恋人の小鳥遊たかなしひいらぎさんが居た。


 髪をブラシで整えているところを見ると朝の身支度をしていんだろう。


「昨日の夜はぐっすり眠れた? 小鳥遊・・・さん」

「う、うん。桐生・・くんは眠れたのかな? あんな事があったのに」


 俺と小鳥遊さんとのぎこちない会話。昨日の夜までは自然体で話していたのにな。


 ………結論を話すと。小鳥遊さんをお仕置きしている最中に凪、萌萌、彩希さんが乱入して来た。そして、俺と小鳥遊さんが楽しそうにしている姿をバッチリと記憶にも記録にも残された挙げ句。


 3人からキツイお仕置きをされた。その後、皆で色々と話し合った結果。1ヶ月のあいだ俺と小鳥遊さんの疑似恋人関係を解くという結論に至ったんだ。


 その為、お互いの呼び方も数週間前の状態に戻す事になったんだが。


「……ぎこちないよな。やっぱり」

「……うん。何かね。胸の辺りがチクチクするんだぁ。ねぇ、2人きりの時だけさぁ。お互い呼び方戻そうよ。桐生くん……駄目かな?」


 小鳥遊さんは目をうるませながら、俺の制服をちょこんとまんで可愛らしく見つめて来る。

 ぐおおぉ! 朝から超絶美少女元彼女の、そんな可愛いポーズで頼まれると断れるわけがないだろうが。


「……そうだよな。誰も見ていないし。2人きりの時くらい下の名前で呼びあっても良いよな。減るもんじゃないし」

「そ、そうそう! そうだよ! 昨日はあんな所を見られて、弱みを握れちゃったせいで。1ヶ月別れる状態になっちゃったけど。私、士郎くんと毎日イチャイチャしてないと死んじゃうもん! だ、だから皆が見ていない今がチャンスなんだよ。士郎くん……」


カシャッ!


「「へ?」」


「……ま、また。イチャイチャしようとしてる」

光莉ひかりの感は鋭いね。流石、長年士郎君をストーキングしているだけはある」

「も、萌。酷い、これはただ見守ってるだけだから」

「それをストーキングって言うんだよ。光莉」


カシャッ!カシャッ!

 萌萌と彩希さんが俺達の方にスマホを向けて写真を撮っている。


「2人共何でも洗面所に居るんだよ。つうか彩希さんは何でも朝から家の中に?」

「そ、そうよ。ここは士郎くんと私の愛の巣になったの。だからここから立ち去って。私と士郎くんだけにして」

「愛の巣にはなってねえよ……それよりも不味いぞ。あんな写真を凪に送られたりしたら。俺達、またお仕置きされかねん」

「うっ! それだけは嫌だよ。どうにかしないとまたお尻をペンペンされちゃう」


「へー、凪にこの写真を送られると士郎君は不味いんだ。良いを聞いたな~、ねえ、光莉ひかり

「……何を考えているの? 萌」

「んー? それはね。士郎君、この写真を凪に送られたくないなら。ボクと今からお風呂に入ろうか」

「「お風呂?!」」

「はっ? 風呂だと? なに言ってんだ?」


 何だ? 昨日の話し合いで可笑しくなったか? 萌萌。いや元々、変わっている娘ではあるが。こんな朝っぱらから、一緒に風呂に入ろうなんて……あまりの衝撃の一言で小鳥遊さんも彩希さんも固まりまってるし。


「えー、ボクは本気だよ。ライバルも増えちゃったしね。チャンスがあるなら掴むのがスポーツ選手だし……士郎君のここも♡ 期待してるみたいだよ」


 萌萌はそう言うと俺の身体に密着して、腹部辺りを触り始めた。


「ちょっ! 萌。貴女、いったい何をしているの! 桐生くんは私の……」

「はわわわ……朝から刺激が強すぎます……」ドサッ!


 小鳥遊さんは赤面しながら狼狽ろうばいし、彩希さんは泡を吹いて目をグルグルさせ始めた。


「よっと! お互い脱ぎ終わったし。行こうか……お風呂に♡ 士郎君」

「は?……はっ? いつの間にか。俺、裸にされてる? それに何で萌萌までバスタオルを羽織はおってるだけなんだよ!」

「んー? はや着替えはアスリートの特技だよ。それよりも。早く行こうよ! お風呂に……あんまり遅くれると遅刻しちゃうよ」


 萌萌に右手を掴まれ。俺は無抵抗にお風呂へと足を進め始めた。


「ま、待ちなさい。変態萌! 私の彼氏君に何するの!」

「元。彼氏君でしょう? 今の士郎君はフリーなんだから。ボクがどんなアプローチをしようが許されるよね? ひー」

「ムカッ! ダメッ! 士郎くんは私の士郎くんなのー! だからこのバスタオルを取って、制服を着なさい! 変態アスリート萌!!」

「なっ! ちょっ! 何で。ボクのバスタオルを掴んでいるんだい! ひー! そんなに引っ張ったらはだけちゃうじゃないか! や、止めてって……キャアアア!」

「は? お。おい! 大丈夫か。萌萌……うお!」

「へ?萌? 士郎くん?!」


 いきなり。小鳥遊さんが萌萌のバスタオルを引っ張ったせいで俺の方へと身体を倒れかけて来た。


 俺は萌萌が床に転ばない様に支えたせいで変な体勢で倒れ込んでしまい……


「ん?……あれ何だこれ? ビンク色の肌?…あれみたいな」

「な、な、な、キャアアア!! 見ちゃ駄目だよ。士郎君!!」


バチンッ!


「ごはぁ?!」


 萌萌、渾身のビンタが俺に炸裂し、俺は洗面所の壁へと叩きつけられた。


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