第33話 私の告白を断った事、後悔させてあげます

 人の人生には必ず誰しも全盛期というものがあると私は思っています。


 そう誰かしらどこかで来る全盛期。人として全盛期。


 遅かれ早かれ、いつかは来ます。


 そして、私の全盛期は小学生の時でした。気になる男の子の為に可愛くなる様に努力をし、常に人の輪の中心で居られる様に、常に笑顔を絶やさず優しく接してしました。


 あの告白を断られるまでは………


(話って何かな? 彩希あきさん。悪いけどさ、凪が待ってるから様があるなら早めに)

(あ、ご、ごめんね。直ぐ終わるからさ………あ、あの、桐生君)

(ん? 何かな?)

(わ、私ね。君の事がずっと好きだったの。小学校の入学式から君を初めて見てね。それから君の事がずっと好きで好きでたまらなくて…)


 そう。ここが私の一番の全盛期でした。幼少の頃から仲が良かった男の子を振り向かせる為。小学生のくせに、お化粧、香水、お洋服。女の子に欠かせないお洒落しゃれに気を遣い、一目惚れ人に振り向いてもらおうと必死に努力してきたんです。


 そう私の人生がもっとも輝いていた時、お友達皆からしたわれて、可愛いクラスの女の子。そんな娘に告白されればどんな男の子でも断るわけがないと信じていたら……


(ごめん。僕、好きな人が入るから君の気持ちにはこたえてあげられないや。本当にごめん)

(え?……何で? 何で私の告白を断るの? 私、こんなに可愛くなれる様に努力したのね? 何で? 私、桐生君好みになれる様に必死に頑張ったんだよ。ねえ? 何で? 何で? 何で? 何で何で何で何で何で何で何で何で何で……何でな?)

(ちょ、落ち着きなよ……僕の話をちゃんと聞いて…)


 私は桐生君の両肩を掴んで必死で何で私の告白を断ったのか聞いたんです。何が私に足りなかったのか? 何で私じゃ駄目なのかを。


(……理由を聞かせて)

(だから好きな人が入るって言ってるじゃん……本当にごめん。告白してくれた事、凄く嬉しかったよ。じゃあ)


 桐生君は私の両腕を優しく退けると、どこかへ行ってしまいました。申し訳なさそうな表情を浮かべて。


「………アハッ! フラれちゃった。アハハハハ!! フラれちゃった。こんなに可愛いしてたのに私、フラれちゃった………フラれちゃった……努力って無駄なんだ。なーんだ。頑張ったって何の意味もないじゃん」


 それからの私はお化粧もお洒落しゃれも止めて、素の自分で入る様に努めました。


 人と話すのが本当は苦手。


 聞かざるより静かに本を読んで妄想の世界にひたりたい。


 目立ちたくない。好きな人と静な時間を過ごしたい。


 そう過ごしたかったのに……私は桐生君にフラれた。

 

 努力なんて所詮しょせん無駄です。無駄ならせめて影で彼を見ていても良いですよね?


 フラれたんだから、そのくらいの権利は私にはあります。だから、私は桐生君を遠くから見守っていました。


 小学生の時にフラれた時から、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと………桐生君を影でずっと見守っていたんです。


 そうしていたら、何でいきなり小鳥遊たかなしひいらぎさんが桐生君と仲良くなっていたんです。


 これってどういう事ですか?


 私が見守って入るのに何を浮気してるんですか? 桐生君……貴方を捕まえて直接聞き出させて下さい。この貴方を今まで見守っていてあげた私に……ねえ? 桐生君。



「………ん? ここはどこだ?………また眠らされたのか? 俺?」


 目を開けて自分の現状を確認する。何故か椅子の上に座らされて、手足を縛られていた。

 

「ひゃい! お、起きた?!」

「ん? 誰の声だ?」


 俺は前を見上げた。すると目の前には、ロングセラーの髪をボサボサにして、前髪で顔を隠し黒淵のメガネを掛けている女子生徒が、何故か驚いた顔をして、俺を見つめていた。


 ………つうか。この娘、見覚えがあるぞ。いや違うか見覚えがあるというよりも、いつも監視されていると言った方が正しいか。


彩希あき光莉ひかり ……さんだよな? 小学校からの同級生の」

「へぁ?! な、何で私の名前、知ってるですか?」

「いや、同じクラスだし。小さい頃は萌萌とか凪と一緒に遊んでたじゃないか。それに俺の方を見ていつも監視してるだろう。君」

「か、監視? わ、私、そんな事してません。見守っているだけですから」

「見守る? なんだそれ?」


 彩希あき光莉ひかりさんとは小さい頃からの面識があった。親同士が親友らしく、ちょいちょい一緒に遊んでたっけな。数年振りにまともに話したけど。この娘、こんなにしどろもどろに喋る娘だったか? 小学生の時なんて、いつもクラスの中心でマドンナ的存在だったのに。


 今はまるで別人だ。地味な印象がある女の子に変わったな。


 ……いや体のスタイルはかなり良く育ってるか。彩希あきさんとは地味に小中高と学校が一緒でクラスも一緒だったから、彼女の成長過程を俺は静かに見守って来た事になるんだな。干渉かんしょう深い。


「あ、あの! ど、どこを見てるんですか?」

「ん? ああ、彩希あきさんの身体全体だが」

「わ、私の身体?………」

バチッ………バリバリバリバリ!!


「う、嘘だ! 嘘だから! だからスタンガンで俺をしびれさせようとするんじゃない」

「……じゃあ。どこを見てるんですか?」

「んー? 顔かな? つうか何で、前髪で顔を隠してるんだ?」

「そ、それはあんまり目立ちくないので……素顔がバレると言い寄って来る人達もいますし」


 喋り方まで変わっているな。小学生の時はギャルっぽかったのに。


「なんか色々変わったな。彩希あきさん……二人っきりで喋りのも四年ぶり位か?」

「へ? 最後に私と喋った事、覚えていてくれたんですか? 桐生君!」


 おっ! なんか嬉しそうに聞き返してくれたぞ。このまま手足の拘束を外す様に誘導していって……


「あ、ああ、ちゃんと覚えてるよ。小学生の卒業式の時に別れの挨拶を最後にした事を」!


 あれ? それって会話したっていうのか? つうか。卒業式の次の日には、何故か彩希あきさんが家の前を歩いていたんだよな。何回も……何で卒業したばっかりで家の周りに居たのか、怖くて話しかけなかったけど。


 そして、彩希さんが興奮気味に俺に近付いてくる。


「き、桐生君も私と話したかったんですか? いつからですか? もしかしてずっとずっと私に話しかけたかったんですか?」

「あ、いや。何で早口?」


 俺を椅子に拘束してるの良い事に、俺の首元に自身の両手で掴み、膝の上に乗って来た。


 ここまで近いと前髪で隠している素顔もかなり鮮明な見える。


「わ、私も本当は桐生君とずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと喋りたかったんです」

「へー、そうなんだー」


 怖、何でずっとを連呼した?……いやそれよりも彩希さんの素顔。これは……


「へー、彩希さんってかなり美人に育ったんだな。めちゃくちゃ美人さんじゃん」

「ふへぇ?! わ、私が美人?………そんなの嘘ですよ。じゃなかったら桐生君にフラれてませんもの」


 彼女はそう告げると俺に抱きついた。



 

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