第22話 あれから1日経ちまして

 俺は凪のあられもない姿を見た瞬間。理性が吹き飛んだ。

 あの可愛さであの身体。あんな姿を見れば、どんな男だろうと理性など保てるわけもない。


 そして、吹き飛んだ後にやる事といえば……キスであろうと結論付けた俺は、凪を縛っていたひもをほどき。


 煩悩丸出しで、凪に近付いてキスをしようと試みたが……彼女は気を失った。俺はそこで我に返り、凪をおぶって凪の家に連れて行き寝かせつけた。


 生殺しだった……もしあそこでキスが成功し、晴れてお互いの思いが通じ合えていたとしたら。今日という日はどんな風に変わっていたのだろうか?


 幼馴染みだった頃と違う。祝日の買い物デート。凪は運動が好きだから、スポーツジムで一緒に運動したりするのも良いかもしれない。


 そう。あのキスが成功していればあったかもしれない、タラレバの話。そうあったかもしれない未来の話をしても、空しくなるだけだ。


 だから俺は次の日の朝になったら速攻で家を出た。

 昨日の自分の行動を思い出して、羞恥心にもだえている最中に、凪が俺の部屋に突撃してきて。


「あれ? 士郎。昨日、私に何かしたか。覚えてる? 覚えてるよね? この変態!」


 何て事を笑顔で言われたら、俺は間違いなく心が壊れるだろう。だから凪とは少し距離を取ろう。土日の休みの日だけでも。


《市民公園》


「いっくよー!」「ハイハイ~」

「パパー! ママー!」「よ~し! 良い子だ!」「まぁまぁ、怪我しない様にね」


 現在、土曜日の10時。何人もの恋人達や家族連れで、公園内はにぎわっていた。そんな中、俺は1人ベンチに座り上空をボーッと眺めていた。


「平和だ。昨日のあれが嘘の様に平和だ。そして、凪の可愛さが頭から離れない。あの光景が頭から離れないんだ……あんなの見たら理性が保てなくて当然だろ。凪の産まれたての…あの」


 俺が煩悩ぼんのうに悩まされ、頭を抱えていると───


「産まれたてがどうしたんだい? 士郎君」

「どわぁぁ! 凪?……じゃない?」

「うん。凪じゃないよ。じゃなくて残念だったかい?」

「君は。もえさんか」

「正解。3日振りだね。こんな所で何をしているんだい?」

「いや。それは…」


 自分の本能に従い、凪にキスを迫った挙げ句に。失敗して逃げ出したなどと口が裂けても言えない。


 しかし、萌萌の格好。上はジャージで、下は莉桜りお高校の制服をスカートだ。背中にはテニスラケットのケースを左肩に担いでいる。


「あっ! もしかしてボクの今日の練習試合の応援に来てくれたとかい?」

「練習試合の応援? 何の事だ?」

「その反応。違うみたいだね……少し残念だよ。シクシク」


 萌萌はそう言うと目の当たりに両手を当て、泣き出すフリをし始めた。


「お、おい。悪かった」

「プッ! アハハ、冗談だよ。士郎君って案外騙されやすいんだね。意外」

「は? 冗談…君なぁ」


 俺は今、人生最大のやらかしをしてしまい落ち込んでいて、ちゃんとした思考が出来ないんだ。

 そんな状態で俺を揶揄からかわないでくれ。萌萌。


「あー、ごめん。ごめん。今日はね。この市民公園のテニスコートを借りて、他校との練習試合なんだよ」

「練習試合? 飛鳥学園うちとのか?」

「うん。それともう一校だね」

「もう一校? つまり。3つの学校のテニス部がこの公園内にある運動場で合同練習するって事か」

「そうそう。莉桜りお高校と飛鳥学園、それに月宮つきみや高校のテニス部がね」

月宮つきみや高校って、確か。莉桜りお高校や飛鳥学園の隣の地区にある高校だよな? お金持ちの」

「そうそう。その月宮つきみや高校だね。士郎君。部活とかやってないのに良く知っているね」

「いや、凪の奴が良く、運動の部活のスケットで練習試合とかにも行ってるらしいから、それで色々と聞かされてる……ん……だ。凪」


 俺は凪の名前を口に知て、勝手に落ち込んだ。


「ん? どうしたの士郎君。もしかして、なぎと何かあった?」

「あー、いや。それは…」


 萌萌が心配そうに俺の顔を覗き込もうと、顔を近付いて来る。相変わらず。中性的なカッコ可愛い顔立ちだな。


 これは男女共に引かれるのもうなずける。そんな事を心の中で考えながら。萌萌の質問にどう応えようか思案していると───


「見つけましたよ。私の永遠のライバル。西蓮寺萌さん!」

「この声は……まさか。愛璃あいり?」

愛璃あいり?……知り合いか?」

「い、いや。他人だよ。他校だしね。うん。何の面識もない……しまった~、士郎君と居る所を愛璃あいりに見られるなんて」


 珍しく萌萌が焦っている。俺はその原因である。愛璃あいりなる娘の方をチラッと見た。


 高校指定のジャージだろうか? それを着て、左肩には萌萌と同じ様にテニスラケットのケースを担いでいる。


 髪の色は金髪でポニーテールに結び。幼さが残る可愛いらしい顔立ちをしていて、自分の容姿にに相当自身があるのだろう。


 満面の笑みを浮かべて挑発的な態度で萌萌を見つめている。


「西蓮寺萌さん。今日、こそは幼少期のテニススクールからの貴女との因縁に終止符……を?」


 愛璃あいりとか言う娘は、萌萌の隣に居る俺を見て、硬直した。


愛璃あいり? どうしたの? いきなり固まって」

「さ、西蓮寺萌さん……そ、そのモデルみたいな人は誰? もしかして貴女の彼氏?」

「彼氏? さぁ、どっちだと思う? 愛璃」

「お、おい! 何でいきなり。俺の両肩に手を乗せて…」

「良いから。良いから……言うこと聞いてくれないと私のお尻触った詳細を柊に言っちゃうよ」

「ぐっ……萌萌。貴様」


 萌萌は意地の悪い顔で、愛璃をニヤッとした表情を向けた。すると愛璃さんは…


「……ふ、ふ、ふ……け…」

「ふけ? 」

「不潔よぉ! 西蓮寺萌さん! 私達はスポーツ選手ですよ。なのになのに……私よりも先に彼氏を作るなんて。裏切り者おぉ!!」


 彼女はそう叫ぶと、テニスコートがある練習場へと走って行った。


「あっ! おい……なんだあれ?」

月宮つきみや高校のテニス部エース。九条 愛璃あいり。ボクの永遠のライバルってところかな」

「……永遠のライバル」



《市民公園 バス停》


「いやー、今日はスケットに来てくれてありがとう。凪、それにひー、も珍しく私の応援何かに来てくれて……今日の天気、急変して、どしゃ降りにならなければ良いけど」

「な、ならないよ。アーちゃん」

「そうそう。今日はこんなに快晴なんだしね。だから今日は昨日の事をパーっと忘れて、アスナちゃんのテニス部の為に絶対に勝つよー、私!」


「おー、凄いやる気だね。凪、急遽、スケットに頼んだのにさあ。ありがとう」

「なーちゃん。頑張って!」


 

 この時の俺は知らなかったんだ。俺が抱える2つの爆弾が、萌萌と一緒に行動している俺の近くへ、急接近している。事を。


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