第10話 幼馴染みの試合を観ながら朝からイチャイチャを見せつける

《飛鳥学園 テニス練習場》


「おいおい。自称、俺の彼女さんや」

「んー? なにかね? 私の未来の旦那様や」

「…………」


 俺は小鳥遊さんのとんでも発言により。思考が一瞬だけフリーズする。


「旦那様?……いやいや。これは小鳥遊さんの冗談だ! つうか。そろそろ右手の恋人繋ぎから解放してほしいんだが」

「んー? 何で?」


 いや。何んで嬉しそうに聞き返すの? この娘。1つ1つの仕草が本当に可愛いな。全く!


「君は俺の残りの学園生活を破滅させたいのか? 周りを良く見てみろ。皆、君に注目してるんだぞ」

「うん。それと桐生君にもね」



「おいおい。あの噂本当だったのかよ!」

「桐生が小鳥遊さんと?……くそー、なら、朝比奈とは別れたって事か?」


「しゃー、お似合いー! ていうか何で? テニス部の朝の練習に来てるわけ? 人が集まってるからお披露目かなんかかな?」

「朝比奈さんの応援じゃないの? 桐生君って朝比奈さんの元彼なんでしょう?……あれ? そう考えると。今の状況ってプチ修羅場?」


 などと。テニス練習場に集まったギャラリー達。


 女子生徒からはありもしない憶測が。男子生徒からは憎悪の眼差しが俺達に向けられているのをひしひしと感じる。


 小鳥遊さんは日頃から人に見られる事に慣れている為か、微動だにしていないが。


 俺は違う。彼女の恋人繋ぎから開放された後、恐らくだが。教室に入った瞬間、クラスの男共にリンチされる運命にあるからだ。


 つうか。今もテニス練習場のすみで、変な仮面を付けた奴等が俺を凄い形相で睨みつけているのが目視確認出来るんだが。


 助けてくれ。誰かー!



「おや? あれは凪の幼馴染みの……士郎君かい? 久しぶりに見たけど。カッコ良くなったね」

「グギギ……士郎! 何でヒーちゃんと恋人繋ぎしてるのよ? 見せつけ?! 付き合って無いんじゃなかったのー!」


 それとは違う視線。何故か怒り狂う。我が幼馴染みと、その対戦相手だろうか? 凪よりも少し背が高く、ボーイッシュな娘。女子だよな? 見た目は中性的な顔で美少年にも見える。

 

 それにどこかで見覚えがあるな。うち住んでる地区に住んでる娘で、たまに凪と放課後一緒入るのを見た事がある。


 直ぐ近くの高校。莉桜りお高校テニス部のエース。確か名前は───


西蓮寺さいれんじもえちゃんだね」

「あー、そうそう。確かそんな名前だ。ん? 小鳥遊たかなしさん。なんであの娘の事してんの?」

「知ってるも何も友達だもん。放課後は良く一緒に遊んでるんだよ」

「友達? へー、そうなんだ」


 西蓮寺 もえさんねえ。あれだけ顔が良いと男女両方からモテそうだが。下の名前はもえさんか。可愛い名前だな。それに小鳥遊さんと一緒に居たら、めちゃくちゃお似合いな男女カップルと間違われそうだな。


「では、試合開始!」

「「よろしくお願いします!」」


 そんな俺達のやり取りをしている間に、凪と西蓮寺さんの試合が始まり。打ち合いが始まった。


 2人の試合は西蓮寺さんが俺達が観戦している側のコースで、凪がその反対側のコースで試合が始まるみたいだ。


 要するに凪は俺達のやり取りを真っ正直でまじまじと見る事になるという事になる。


「……ねえ? 浮気したら。駄目だからね」

「は? 浮気? 誰にだよ?」

もえちゃんにだよ。浮気は1発アウト。禁固刑に処すからね」

「……いや、だから。俺達はそもそも付き合って無いわけ……うぉ?!」


 俺がそう言った瞬間。小鳥遊さんは俺の腰周りに手を回し、抱き付いて来た。


「コースアウト! フォーティ!」

「「「オオオオオ!!」」」


「おいおい。凪、何、観客側の網の方に全力で打ち込んでんだ……ああ、そういう」

「グヌヌ……士郎! 付き合って無いんじゃなかったの? おのれ。ヒーちゃんの小悪魔!」


 西蓮寺さんと凪の試合が白熱して観客が盛り上がっているのか。


 それとも飛鳥学園のアイドル的存在の小鳥遊たかなしさんが、1人の男子生徒に抱き付いたせいなのかは分からないが、テニス練習場で今日1番の歓声が起きた。


「……おのれ。君はどんだけの既成事実を作る気なんだ? あの告白は間違ったって何回も言ってるだろう」

「ううん。あれは本物の告白だった。だから逃げられると思わないでね。桐生君。私、結構。執念深い女だからね」


 小鳥遊さんはそう言って、試合をしている凪の方を見て、小悪魔の様に凪に微笑んだ。

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