Re:Vanish ― 失墜からの再起
つくし君@情けない
第1話
薄暗いゲーミングルームには、冷え切った空気だけが漂っていた。神谷玲央(かみや れお)は、かつての栄光を象った大型モニターの前に、ぽつんと腰を下ろしている。そこに映し出されているのは、自分のかつての称号――“PRO LEAGUE:Elite”の輝かしい文字だったはずだ。しかし今は、その文字は淡く、遠い過去の記憶のように見える。
──あの日、あの瞬間までは違ったはずだった。
プロリーグ決勝トーナメント。世界中の視聴者が見守るなか、最後の一戦――三ラウンド制のタイマン勝負で、玲央は、誰もが認める最強候補の座にあった。相手は、予選を無敗で駆け抜けた天才少女プレイヤー“アイリス”。だが、誰もが勝利を確信したその最終ラウンドで、彼のコンボがひとつだけつながらなかった。
□→□→△→○→□□の完璧なチェインを狙ったつもりが、最後の□ボタンのタイミングをわずかに外す。画面上の彼のアバターは、大技“ブレイズアサルト”を空振りしてしまい、その隙を突かれて強烈な一撃を浴びた。カウント0――無情にも敗北を告げる画面効果音が、スタジアムの静寂を破った。
「まさか……嘘だろ……?」
モニターの前で、玲央はコントローラーを握る手に力を込めた。しかし、画面に映る赤字の「LOSE」の二文字は消えない。アリーナの実況アナウンサーが絶句し、SNSでは一瞬にして「Eliteの敗北」がトレンド入りした。視聴者数は百万人を超え、誰もが彼の終焉を見届けたと信じた。
試合終了から十数分後、プロリーグの運営サイトがアップデートされた。そこには、「プロ帯降格者リスト」に神谷玲央の名前が赤字で記されていた。Elite帯からシルバーへ、そして翌週には更にアマチュア帯へと強制降格。プロリーグのレギュレーションでは、規定の勝率を下回ったプレイヤーは段階的に降格する仕組みになっているが、まさか玲央自身がその対象になるなど、誰も予想していなかった。
「……これが、俺の今の居場所か」
プロフィール画面を開くと、自分のランクアイコンが「AMATEUR Ⅴ」になっているのがひと目でわかった。かつて「GRAND MASTER」まであと一歩と言われた自分が、いまや底辺クラスの最下層――。その現実を受け止められず、思わずモニターを強く叩きつけた。
「チクショウ!」
しかし、目の前の画面は何も変わらない。ランクは過去も未来も更新されない冷酷な数字だ。コントローラーを置き、玲央は深く息を吐いた。目の奥が熱くなる。己の不甲斐なさ、ほんの僅かなミスが招いた転落。だがそれだけではない。同期のプロ仲間たちは口々に、「もう見限った」「才能がもう枯れたんだろう」と切り捨て、SNSでは「神谷、終わったな」という嘲笑と中傷のコメントが飛び交っていた。
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