第13章:母の声
展示の最終日、美月は会場で一人の女性に声をかけられた。
「美月……よね?」
その声に振り返ると、母・奈緒が立っていた。
シンプルなコートをまとい、どこか緊張した表情で美月を見つめている。
美月は一瞬、時間が止まったように感じた。
「お母さん……なんでここに?」
「あなたの展示、ネットで見たの。どうしても、見たかったから」
奈緒の声は震えていた。美月は言葉に詰まり、ただ頷いた。
奈緒は会場をゆっくり回り、美月のイラストを一つ一つ丁寧に見つめた。
湖の光、街の影、人の温もり。彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「美月、こんな素晴らしい絵、描けるようになったのね……。私、知らなかった」
その言葉に、美月の胸が締め付けられた。
幼い頃、母に拒絶された記憶がよみがえる。
「あんたなんか、いらない」と言われた夜。あの傷が、彼女の自己否定感の根源だった。
「今さら、そんなこと言われても……」
美月は小さな声で呟き、目を逸らした。奈緒は一歩近づき、こう続けた。
「美月、ごめんなさい。あの頃の私は、自分のことで精一杯で、あなたを傷つけた。ずっと、謝りたかった」
美月は涙をこらえ、首を振った。
「もういいよ。過去は変えられないから」
彼女は会場を後にし、奈緒を残した。だが、母の言葉は、彼女の心に小さな波紋を広げていた。
その夜、悠真に電話をかけた。
「悠真、今日、お母さんが展示に来て……なんか、謝られたんだけど、わたし、どうしていいかわからない」
悠真は静かに聞き、こう答えた。
「美月、君のペースでいいよ。過去と向き合うの、簡単じゃない。でも、君ならできる。俺、そばにいるから」
その言葉に、美月は涙がこぼれた。
悠真の声は、まるで湖の光のように、彼女の心を照らした。
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