始章・神創戦劇録~この世でもっとも身勝手な女王様に振り回されてます!!??~
御魂海色
入学
第1話 アクションスタート
「今回のターゲットは大物だぜ」
「報酬たんまりだろ。何に使おうかな」
「お前ら、もっと集中しろよ」
月の光が厚い雲で遮られた夜、ヒソヒソと何かに聞かれないように小さく喋る三人の男が居た。
彼らは一見すると普通の通行人であるが、よく観察してみると各々がその手に凶器を持ち不敵に笑っていた。
「大丈夫だってリーダー。今は真夜中、たとえ本人が警戒していようが関係ないさ」
「そうだよリーダー。それにターゲットには護衛なんて付いていないらしいじゃん」
先頭を歩く強面の男に向かって油断しかない楽しそうな声を上げたのは、顔のよく似ている男二人だった。
「だとしても奴は重要人物。何が起こるか分かったもんじゃねえ。しっかり気ぃ張れ」
強面の男は呆れたように溜息を吐きつつ、少し低めの声で二人を叱った。
どうやら、前を歩く男はしっかり者らしい。それでも後ろを歩く双子までとはいかないが浮かれているような様子が伺える。どうやら、奴らに与えられる予定の報酬とやらは相当なものらしい。全く、人間というものはくだらないな。
「わかったよ。リーダーは心配症だな」
「ほんとほんと。大丈夫だってッ──」
刹那、後ろを歩いていた男のうちの一人の声が消えた。それが襲撃であると残りの二人が気づいたのは、既に致命傷を与えられた後であった。
「何が……起こった……?」
理解ができない、そう言いたげな顔で地に伏せる強面の男が最後に見たのは、赤く光る獲物を持った悪魔だった……
◇◇◇
ピピピッ、ピピピッ、と部屋中にアラームが響き渡る。その煩わしい音によって目を覚ました俺は、鬱陶しげな声を上げながら手の感覚のみでそこら辺に転がっているであろう不愉快な音を撒き散らすスマホを探し出す。
「……んぅ、もう朝かよ」
昨晩はとある理由で寝られなかったため、正直な話をするともう少し寝ていたかったのだが、そういうわけにもいかないので仕方なく無理やり身体を起こす。
少しの間上体のみ起こした体勢でボーッとしていたが、危うくそのまま寝てしまいそうだったことに気づいていかんいかんと首を横にブンブンと振ってベッドから降りる。朝が苦手だというのは困るものだな。
ここ数年は昼夜が逆転していたので、所謂”学生”と呼ばれる人達のサイクルに戻すのにとても苦労した。
ではなぜ、数年間夜の人間として動いていた俺が再び昼夜逆転をすることにしたのか、その理由はとても簡単だった。
今日、四月七日より、俺こと
一般の学生が夜を生き、昼間に寝る訳にはいかないので、仕方なく生活サイクルを元に戻した、というわけである。
『君には高校に行って欲しいんだけどね』
『命令だ。君には高校に通ってもらう』
身支度をしながら、頭の中で過去の記憶を思い浮かべていく。
最初に出てきたのは、優しく微笑んでいる白銀の髪の女性。その次に四角い眼鏡をかけたスーツの男が浮かんできた。
あまり見たくない顔を思い出してしまったので少し不快な思いをしつつ、高校生とは思えないようなアタッシュケースを手に持ち、少しだけ堅苦しい制服のネクタイを緩めて立ち上がる。
「まさか、本当に通うことになるなんてな」
家を出る前に、リビングに飾られている写真に向かって微笑みかける。
そこにはウザそうに顔を背ける幼き日の俺と楽しそうに笑う白銀の女性が写っていた。
少しの間その写真を眺めていたのだが、ふと「今何時だ?」という疑問が頭に浮かぶ。
「……まじか」
スマホの電源を付け、ロック画面に表示された時計を見てそんな言葉と共に溜息を吐いてしまった。
どうやら、相当な時間思い出に耽ってしまっていたらしい。その画面に表示されたのは、八時二十分という数字。たしか今日の入学式の受付は八時半頃だったはずだ。そして、この家から徒歩で向かうと二十分、走っても十分は超える。
それらから導き出されるのは、”遅刻”という二文字だった。
諦めて堂々と遅刻してやることも一瞬だけ頭をよぎったのだが、流石にそんなことはしない。そう、走ってしまえば十分を超える程度で着いてしまう。それは普通のペースで走った場合である。
俺はこれまでの人生で結構運動をしてきたので、少しだけ体力と身体能力には自信がある。仕方がない。登校リアルタイムアタックの記録更新をすることにしようか。
「さあ、
もう俺の口癖にもなってしまっているのだが、一度首を鳴らしながら母親がよく口にする言葉を呟いて、俺は疾駆するべく一歩力強く前に足を出したのだった。
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