第12話資格

タニヤマ「新卒売り手市場といっても自分とマッチした会社に入るためにはそれ相応の努力が必要なんよ。」


ソトナカ「キモ。」


タ「キモってなんや!あれか、就活アレルギーってやつか!」


ソ「部屋入って枕詞もなしに突発的に話し出すのがキモイって言うとんねん。何?就活?」


タ「おお。実はな、来年の就活に備えて今から動き出そうと思っててな。」


ソ「それ自体は殊勝な心掛けやん。具体的に何するん?」


タ「ふふふ。今からな、資格の勉強すんねん。」


ソ「資格?お前去年の春ごろ簿記3級取るって言ってなかった?」


タ「いや、それはやめた。俺二桁の計算できんし。」


ソ「日常生活も危ういやんけ。あと半年前はITパスポート取るって。」


タ「それもやめた。俺電子機器を信用してないし。」


ソ「なんで頭脳も思想も日常生活が困難な方向に向かってんねん。じゃあ何の資格の勉強すんの?」


タ「アロマテラピー検定。」


ソ「謎のチョイスすぎるやろ?え、就活のために勉強するんよな。」


タ「せやで。就活ってあれやろ。なんか資格取っとけば楽勝なんやろ?」


ソ「そんな一要因だけで決まるわけないやろ。」


タ「えーマジか。」


ソ「そもそも何?アロマ?そういう系の業界に興味あんの?」


タ「いや、全然。ネットで『資格 簡単』って調べたら出てきた。」


ソ「どういう調べ方しとんねん。興味のある業界と関係ある資格取らな。何系の業界が興味あんの?」


タ「なあ。」


ソ「ん?」


タ「業界ってなんや?」


ソ「そこからかい!じゃあもういいよ。何かやりたいこととかないの?」


タ「強いて挙げるとすれば、この騒がしくも平穏な日々をいつまでも続けたいなって。」


ソ「ポエミーにモラトリアム気取りやがって。」


タ「いや~でも急にやりたいことって言われてもなぁ。」


ソ「あんな、そもそも前提が間違ってるわ。資格をまず取るんじゃなくて、やりたいことを先に決めるんだわ。大学という社会に出る前の準備期間に、自分がどんな人間であるかを知り、得意なこと・やりたいことを把握する。そうすれば、必要なスキルも資格も自然と分かって、勉強にも身が入るってもんなんや。」


タ「めっちゃ早口で喋っててウケル。」


ソ「殺すぞ。」


タ「ごめんて、そんな怒んなやクソがっ!!」


ソ「何逆ギレで誤魔化そうとしとんねん!」


タ「資格先に取って自信つけるのも一つの手とちゃうんかい!」


ソ「それで簿記もITパスポートも失敗しとるやんけ!」


タ「失敗は成功のおともって言うじゃろがい!」


ソ「もとやろがい!ご飯のお供みたいに言うなや!そもそもお前卒業したら地元帰るんちゃうんけ!」


タ「帰る可能性もなくはないかもしれんやろがい!」


ソ「お前の就活への意識並みにフワフワしとるやないかい!」


タ「実家の工場継いで欲しいとは言われとるわ!」


ソ「じゃあそれでええやんけ!資格の勉強とか必要ないやろ!」


タ「丸の内のオフィスで社員証をピッってしてみたい欲もあるぅ!」


ソ「都会に憧れるOLか!別に無理して勉強するより実家継ぐ方が楽やろが!」


タ「お前とのシェアハウスが楽しかったからぁ!」


ソ「…!」


タ「お前とのシェアハウスが楽しかったからぁ…もう少し東京にいてみたかったりぃ…。」


ソ「…まあ、その、あれや。勉強しようと思うこと自体はええことやと思う。」


タ「もしかしてぇ…照れてんのぉ…?」


ソ「何をイメージした喋り方やねん。」


タ「まあ、ソトナカの言ってたことも二十八理くらいあるし自己分析から始めてみるわ。」


ソ「一理の28倍やんけ、めちゃめちゃ心に響いとるやんけ。」


タ「…。」


ソ「…。」


タ「…海外留学ってさぁ。」


ソ「駅前留学にしとけ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る