パート9: 二日目の朝とスキルの小手調べ
ピピピ、チュンチュン…
どこかで鳥が騒がしく鳴いている。
冷たい空気が肌を刺し、俺は不快な寒さで目を覚ました。
「…ん……さむっ…」
身じろぎすると、全身の節々がギシギシと痛む。
昨夜かき集めた落ち葉の寝床は、硬い地面の感触を和らげるにはほとんど役立たなかったようだ。
寝た気がしない。最悪の目覚めだった。
ぼんやりとした頭で周囲を見回す。
朝日が木々の隙間から差し込み、森の地面を照らしている。
自分が横たわっていた場所には、ただ乱れた落ち葉があるだけ。
(ああ、そうだったな…俺は追放されて、野宿したんだった…)
現実に引き戻され、重いため息が出る。
昨日までの生活が、遠い夢のようだ。
起き上がろうとして、体の重さとだるさに顔をしかめる。疲労が全く抜けていない。
(体が…だるいな…そうだ、あのスキルがあったな)
【万能治癒】。
昨日は少しだけ有用性を見直したが、まだ半信半疑だ。
(疲労回復とか、できんのか? ダメ元で試してみるか)
俺は自分自身に意識を集中し、心の中でスキルの発動を念じた。
『【万能治癒】、発動!』
すると、ふわりと体が淡い光に包まれたような感覚があった。
温かいような、心地よいような、不思議な感覚。
数秒ほどで光は消え、俺は自分の体の変化に注意を向けた。
(…おお?)
劇的な変化はない。
だが、さっきまで感じていた体の鉛のような重さや、節々の鈍い痛みが、じんわりと和らいでいるのが分かった。
完全に回復したわけではないが、明らかに体が軽くなっている。
「少しは効いたか…? 地味だけど、まあ、無いよりはマシ…なのか?」
スキルへの評価を、ほんの少しだけ上方修正する。
少なくとも、疲労を多少なりとも軽減できるなら、この先の長い旅では役立つかもしれない。
残りの少ない水で顔を洗い、頭をすっきりさせる。
布袋の中身を再確認するが、状況は絶望的だ。
パンは昨夜で食べ尽くした。水も、もうほとんど残っていない。銅貨はたったの2枚。
(ヤバいな…今日中に水と食料を見つけないと、本気で干上がるぞ)
もはや猶予はない。
俺は茂みから出て、再び街道らしき道に戻った。
朝の光の中、周囲の景色が昨日よりはっきりと見える。見渡す限り、荒れた土地とまばらな木々が続いている。本当に辺境へ向かっているのか、不安になるような殺風景さだ。
北東へ、北東へと、ひたすら歩く。
しばらく歩くと、道の先に、いくつか建物が見えてきた。煙も上がっている。小さな村か、あるいは農家だろうか。
(人がいる…水くらい分けてもらえるか…?)
一瞬、期待が頭をよぎる。
だが、すぐに首を振った。
(いや、待て。俺の今の格好はボロボロだ。それに、金は銅貨2枚しかない。水をもらえたとしても、食料を買う金はない。下手に近づいて、厄介ごとに巻き込まれるのは避けたい)
元貴族としてのプライド、というよりは、面倒事を避けたいという気持ちと、追放者としての警戒心が、俺に人里へ近づくことをためらわせた。
結局、俺はその人里らしき場所を大きく迂回し、再び何もない街道を歩き続けることを選択した。
喉の渇きと、空腹感がじわじわと強まってくる。
食料と水の確保。それが、今日の俺の最優先課題となった。
(どこかに川でも流れていないか…あるいは、何か食える木の実でも…)
周囲に注意を払いながら、俺は二日目の過酷な旅を続けた。
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