「おや、おはようございます」

「…あ、おはようございます」

 書類を取りに行くと、まだ年若い少年がいた。彼は平野君。先週入って来た子で、バイクに乗っていて事故を起こしてしまったらしい。私も昔は中型のバイクを乗り回していたのでその話で少々盛り上がり、それから顔を合わせた時は話をするようになった。

「今日幽便局人いっぱいでしたね」

「なんか無差別殺傷事件があったんだって。その関係の人たちが一気に来たみたい。怖いよね〜」

「本当ですね、日本じゃないみたい…」

「安全な国って言われてるけど、油断してるから危ないってこともあるよね」

「確かに…あ、じゃあ僕行きますね」

「引き止めてごめんね、いってらっしゃい」

 平野くんは先に封筒を持って配達へと出掛けていった。私もそろそろ向かうとするか。封筒の山の中から一つ選び出し、中身を確認する。

 …ん?

「…これ、あの婆さんじゃないか?」

 見覚えのある名前が書類に書かれていた。簡易的な説明を見ると、尚更知っている人物だ。話をすることはできないが、久しぶりに会うことができるのが楽しみだ。なにせ私が定年退職をしたころ以来あっていないので、5年ぶりくらいだろうか。ただ心配なのは、彼女の今いる場所だ。


『榎本志津子(えのもとしづこ) 90歳

 家族構成:紀平加奈子(きひらかなこ) 57歳

      榎本一樹(えのもとかずき) 62歳

      榎本秀樹(えのもとひでき) 90歳(70歳の時にウイルス感染により死亡)


 現在心臓病により、国立病院に入院している……


 こちらの世界の労働の対価として、榎本秀樹から妻・榎本志津子に葉書を送付する。』


「…入院か。大丈夫か?」

 年も年だし、どこかにガタが来ていても何もおかしくはないのだが、他人事にはできない。封筒から鍵を探し出すと、コーヒー豆の柄が書かれたレバータンブラー錠が出て来た。なんとも、あの人らしい鍵で思わず笑ってしまった。

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