貴方を愛した事なんか一瞬たりとも御座いません
佐山 もこ
アイシテル
「好きだよ、舞」
糸のように細い髪の毛を揺らしながら彼は言う。
昨日の事なんかまるでドラマの中での出来事だと錯覚してしまう私。
「私も好きだよ、優雅」
でも。
私は、知っているんだよ。
あなたの事なんか、嫌い。
細くとも引き締まった白い身体も、猫のような性格も、周りの女が見惚れるような優しい声色も、何もかも嫌い。
だってあなたは。
浮気をしているんだよね。
昨日は私はバイトしていたから、あなたとは会っていないよね。
でもあなたはラブホに来た。
私がラブホでバイトしているなんて知らないから当然だよね。
確かに、ラブホでバイトなんて私も変だと思うよ。
でもさ。
あなたは、私のような不細工な女とは真逆のとっても可愛い化粧の濃いちっちゃい女の子とラブホに来たよね。
私、知ってるよ。
先輩が気づいて代わりに受付してくれたんだけど、あの女の名前を呼ぶ時、ものすごく愛を声に含んでいたよね。
私の時は、そんなふうに呼んでくれたことないくせに。
「舞、明日は用事があるんだよね」
「そっか、じゃあ会えないね」
「うん、ごめんな」
「ううん、仕方ないもんね」
明日は誰と会うのかな。
私だってあなたを愛してなんかいない。
一緒に海外旅行に行こうと約束したのなんて忘れてるし。
その為に即日で働けるバイトを選んだことなんか知らないし。
苦手だった料理も勉強なんかしてない。
可愛くなろうとメイクなんかしてない。
着る服を何時間も悩んだけどなんか一度もない。
私はあなたを許さない。
「じゃあ、また」
私に手を振るあなたは何処か嬉しそうだよね。
まるで私から解放されるのが嬉しいと言うかのように。
私の処女も奪われて泣いてるよ。
「好きだよ、舞。またラインで話そーね」
彼の嘘くさい笑顔は、私の心臓を握りしめて離さないから、一緒に。
「待って、優雅」
「ん?どうかし」
隠してたあなたへの愛をあげる。
ブニュ、と肉を切る感触が手に伝わってくる。
許さない。
私の心臓が高く音をあげる。
許せない。
私の事を好きって、愛してるって言ったくせに。
私の前であんなとろけるような声で名前なんか呼んだ事ないくせに。
私に向ける笑顔はいつも引きつってるくせに。
愛してないなら、私も愛してないから。
「ごふっ、ま、舞…?」
血しぶきが私の顔に飛んでくる。
あったかい。
愛を一度抜き、もう一度別の場所に愛を刺す。
「待っ、ぐぁ゙、ぁ゙ぁ゙」
何度も、何度も、何度も、何度も。
私のかけらもない愛をあげる。
私の嘘の愛を受け取っておかしくなれば良い。
動かなくなった彼の上に私は、覆いかぶさり……。
一緒にもう一度愛し直そうね。
愛を、私自身にもーーーーーーーーー
貴方を愛した事なんか一瞬たりとも御座いません 佐山 もこ @medamayakya253
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