第36話 浅田自動車買収  2026年2月2日(月)9時 

 三カ月後、浅田自動車は、BSコーポレーションの資本参加を認めた。

 北首汽車から、OEM EVの技術提供を中止すると脅された浅田自動車は、会社存続の為に北首汽車の出資を受け入らざるを得なかった。

 第三者割当増資が行われ、BSコーポレーションは、浅田株の33.4%を取得した。

 浅田自動車は、早速、臨時株主総会を開き、役員人事異動を議決した。

 そして、社長の奥寺と副社長の山本は退任となった。

 山本は北首汽車との関係が深かったので、自分自身では退任になるとは思っていなかった様であった。むしろ社長になる可能性だってあると勝手に考えていた様であった。

 しかし、新社長には北首汽車の開発担当総経理の夏が就任した。

 社長のほか、財務担当役員(CFO)、経営戦略担当役員、開発担当役員、営業担当役員、購買担当役員が北首汽車から出向する中国人に変った。

 当然、マスコミは、BSコーポレーションが北首汽車の子会社である事を報道したが、BSコーポレーション自体は日本法人という事もあり、北首汽車が予測した通り、世間の風当たりはそれほど強いものでは無かった。

 北首汽車の浅田自動車臨時株主総会の仕切りも見事であった。

 総会屋まがいを手配し、一般株主に全く文句を言わせるすきを与えなかった。これらの手配は、全てBSコーポレーションの林副社長と会計事務所の高倉がやった。

 藤堂自身は、BSコーポレーションが浅田自動車の筆頭株主になったとは言え、ポジションは変わらずそのままBSコーポレーションの社長に留まった。

 新社長の夏からは、もし浅田自動車に来たければ役員で迎えるというオファーをもらったが、同僚から恨みを買って、仕事がうまくいかないとわかっていたので、そのオファーは辞退した。 

 給料もBSコーポレーションの社長と浅田自動車の役員ではあまりかわらないというのもオファーを断る理由でもあった。


 浅田自動車を支配してからの北首自動車の動きは凄まじかった。

 日本企業と中国企業では仕事のスピード感が全く違う。

 まず北首汽車がやったのは、商品計画の全面見直し。北首汽車のBEV、PHEVの兄弟車を商品計画の中心に据えた。

 次にやったのは、全リージョンのディーラーネットワークの再整備であった。

 日本、北米、欧州、豪州、アジア、全てのリージョンで、ディーラーネットワークの改編が行われた。欧州とアセアンと豪州のディーラーでは、浅田ブランド車と北首ブランドの二つのブランド車を併売する様にした。

 そして、もう一つがサプライチェーンの変革である。

 もともと浅田自動車は福岡の地場サプライヤーを多く使っていた。福岡の地場サプライヤーのコストは少々高かったが、地元福岡経済を守るという名目で起用していた。

 しかし、コスト競争力を重視する北首汽車には、その理由が理解できなかった。

 結果、多くの地場サプライヤーが契約解除され、北首汽車が使用している中国のサプライヤーが多く参入してきた。

 浅田自動車の社員の中には、自分の上司が中国人となり、中国人上司の強引な仕事のやり方に着いていけずに退職する人も多くいた。

 しかし、逆に中国のビジネスのやり方に刺激され、なまぬるい浅田自動車のやり方よりも良いと思い、いきいきと働き始めた若者も居た。

 中国人上司は、そういう人のモチベーションを上げるのに長けていた。共産党のやり方と同じ方法で組織を支配していった。

 しかし、北首汽車が猛スピードで何もかも変えるので、世間では、だんだんと浅田自動車が中国国営企業の北首汽車に乗っ取られたという認識が広がっていった。

 日本のディーラーも中国資本が注入された浅田自動車を嫌い、ディーラー契約更新を辞退するディーラーも現れた。

 OEM車の販売もだんだんと陰りが見えてきた。全世界にいた従来の浅田自動車ファンは、OEM車に浅田ブランドらしさを感じず徐々に浅田ブランドから離れていった。

 加えて、先進7か国財務相会議で、中国政府の資金的援助を受けている中国自動車メーカーが過剰に自動車を生産し、全世界で安売りを行い、各国の自国産業を脅かしているという共同声明が発表され、その声明をキッカケに米国、欧州などの各国が、中国生産車への制裁関税を強化した。

 結果、中国の北京浅田汽車で生産されたOEM車も制裁関税の対象となり、輸入関税が上がり、欧州、アセアンで商品競争力を失っていった。

 従い、北首汽車の子会社の浅田自動車は、福岡工場で、浅田ブランドのOEM EVと北首ブランドのEVを生産する準備を急いでいた。

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