第2話


「偶然条件が同じになってしまったのだと自分は推測している」


「偶然ねぇ…」


 普通魔法少女が変身するには、魔法少女たちにしか見えない”フェアリー”という小さくて可愛いらしい動物のような生き物と、魂を完全に一体化することで変身できるらしい。


 そのフェアリーは、少女と魂を一体化するプロのような生き物らしく、フェアリー無しに変身することは絶対にできない。


 でも、私はフェアリーなんて見えないし、実際私の周りにいるということでもないらしい。


 ある出来事がきっかけで、私がたまたま前世の自分と全く一緒の感情になり、偶然2つの魂が完全に一体化して変身してしまったというのが親友の推測だ。


 異なった2つの魂が完全に一致するなんてそうとう稀なことらしく、理論上ぎりぎりありえはするが、実際に起こることを想定するようなものではないらしい。


 私と前世の男の気持ちが完全にシンクロしたことがきっかけで、魂が完全に一致してしまったらしい。その一体化した感情というのは…


「ムカつきって…ふふ」


「いいだろムカついちまったんだから!しょうがねえよ」


 ユリアが控えめにニヤニヤと笑っているところを私は肩で小突く。


 いやぁ…あのときはついブチギレちゃったなぁ…まさかあんなことで魔法少女になるとは…


 あのときのことを思い出すと恥ずかしくて悶えてしまう。


 別に悪いことをしたわけじゃないし、やったことの後悔は一ミリもしていないのだが、少々無謀なことをしてしまった。


 危険なことはしないでと、結果的に愛する妹を泣かせてしまったので、個人的にはあの出来事は黒歴史なのだ。


 だから、あまりその時のことを語られたくない。


 会話の流れを断つために、強引に話題を変えることにする。


「私も変わってるけど、ユリアも相当めずらしいだろ」


「自分は普通の研究者。親がちょっと奇人なだけ」


「ちょっとじゃねえだろ!親が悪の組織のボスだなんて私以上に珍しいからな!」


「母はタダの目付きの悪いコミュ障の研究者」


「世間からは完全に悪の組織だと思われているけどな」


 私はユリアからユリアの母のことを聞いているので真実を知っているが、世間はユリアの母を完全に悪の組織のボスだと勘違いしている。 


 ユリアの母は、悪そうな格好、ニタリとした笑い方、強い怪人がいる現場に必ず現れて何かをしている、魔法少女を全く相手にしていない、謎の技術力などなど…勘違いされる要素がたんまりあるので勘違いされるのも仕方がない。


 しかも、ユリアの母は世間にどう思われようが全く気にしないタイプなのだ。勘違いを正そうとしない。まさにゴーイングマイウェイ。


 その娘であるユリアも正直似たようなところがある。ユリアは自分のことをただの研究者だとほざいているが、全く普通ではない。私以上に変わった存在だ。


 下手したら魔法少女である私より強い可能性だってある。そんなことを思ってしまうほど、ユリアは不思議で、底が見えない存在なのだ。


「じゃあ姫は魔法少女なのに悪の組織の娘と仲良くするなんて悪い人だね」


「うるせー!親友がたまたま悪の組織のボスの一人娘だっただけだろ!あと姫って呼ぶな」


 ユリアとは中学の同じクラスで初めて出会った。

 

 その当時、ユリアはクラスで明らかに浮いていた。


 ユリアの奇妙さに、周りはどう関わっていいかわからなかったのだろう。教室でも深くフードを被っているし、人とコミュニケーションを取ろうとしないし、なんか変な機械をずっと教室でいじっているし、見た目こわいし…まあ当然っちゃあ当然だ。


 そんなユリアに私はどうしてかとても惹きつけられた。大げさに言えば一目惚れだ。


 その当時はわからなかったが、どうやら私は”はみ出し者”に惹かれる傾向があるようだ。

 

 どうしてもユリアと友達になりたかったので、私はユリアに猛烈に構いにいき、なんだかんだあった末、今では親友だ。


「あの時の姫、自分を口説いてるみたいだった」


「そんな熱烈だったかなぁ。全力だったのは否定しないけど」


 ユリアの言葉に私は思い出すように答える。


 ユリアが言うには、その当時の私の誘い方が直接的すぎたらしい。


 熱烈なアプローチを毎日のようにされたことは、マイペースなユリアでも流石に恥ずかしさを覚えたらしく、最初は仕方がなく私と友達になったらしい。


 まあ今ではユリアも私のことを親友だと認めていると思う。だって、めったに人を褒めないユリアが、私には褒め言葉をくれるのだ。


 ガサツで大げさで単純なところが姫のいいところだって何度も言われたし…あれ?よく考えたらこれって褒め言葉か?うん。まあ、いいところって言ってるし褒め言葉だろう!


 でも、まさかそのときは悪の組織のボスの一人娘だとは思わなかったなぁ…

 

「まあ悪の組織のボスの一人娘だろうと、生まれなんてくっそどうでもいいんだけどね。ユリア、愛してるぜ!」


「ほんと、ガサツで大げさで単純」


 ユリアが呆れたようにぼやく。この答え方は嬉しくて照れているだけだろう。親友の私にはお見通しだ。


「でもさー。後天的に魔法少女になった私より、ユリアのほうが変わってると思うんだよね。だってユリアには宇宙人の血が混じってるんだろ」


「べつに普通」


「普通じゃねーよ」


 ユリアは、大昔の先祖が遥か遠い宇宙から飛来した宇宙人らしく、優れた技術力をもっていたらしい。その技術力と、優れた思考能力をユリア達一家は引き継いでいるのだ。


 そんなあまりにも進歩しすぎている技術力があるので、ユリアの周りでは、なにもない空間からものを取り出したり、不自然にものが浮いていたり、オートでよくわからない物質で構成されたシールドを貼ることができたりなど、ありえないようなことがよく起きている。


 そんなユリアだからこそ、底が見えないと感じることがあるのだろう。


 ただ、コミュニケーション能力や、マイペースさ、ファッションセンス、悪そうに見える顔や表情も遺伝してしまっているのが玉に瑕なのだが…


 まあ私からしたら変な技術力があるだけの、変わった女の子という認識でしかなく、技術力が凄いとかはただの個性としか思っていない。ただユリアが面白いやつという認識なのだ。難しいことは考えないのが私流。シンプルイズベスト。


 でも、頭が良すぎて馬鹿な私にはちんぷんかんぷんなことを言うのはやめて欲しい。真理の追求だとか、四次元の視点だとかは私に言われてもわからない。


 唯一私がふんわりわかったことは、ユリアには普通の人の1秒が10秒に感じる特徴があるといったことくらいだ。


 なんか体の電気信号を光に変えて高速化したとかよく分からない説明をしてた気がするが、案の定よく分からなかったので詳細は覚えていない。


 それがどれだけ凄かろうと、私にとってはただの頼れる頭の良い親友でしかないのだから。


「あそこ見て」


 ユリアが前方の右斜め前方向を指差す。


 なにかと思い指を指した方を見ると、見たくないものが目に入った。


「うっわ…おいおい…あんな旗嬉しそうに振るんじゃねーよ!」


 そこには【姫ちゃん世界一キュート!】と書かれた旗をブンブンと振り回している集団がいた。他にも応援うちわだとか、私の戦うところを象ったTシャツだとか、ファングッズのようなものを見に付けた人たちがたくさんいる。


 こういう人たちがいっぱいいることから分かるように、この世界の人間は皆、魔法少女のことが大好きなのだ。まあそれにしても私のファン達は少し過激なのだが…


 皆、暮らしを守ってくれる魔法少女をヒーローのように思っているのだろう。


 それにしたってちょっと魔法少女は世間から好かれすぎだと思う。私なんてぶん殴ってるだけだし、そんなに好いてもらわなくてもいいのに。


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