魔法少女になんてなりたくなかった!TS転生した主人公はなぜか後天的に魔法少女になってしまう
長月乙
第1話
魔法少女をやっていていいことなんて、筋肉がついたことくらいだ。
もしかしたら魔法少女って、変身して戦うことで、効率の良い筋トレをしているだけの存在でしかないのかもしれない。
そんなしょうもないことを考えている私が、今何をしているのかというと―――
「これで…終わり!」
近くに出てきた怪人を、私の魔法少女らしからぬ肉弾戦でボッコボコにぶっ飛ばし、消滅させたところだ。今回の戦いは私と怪人との力量の差が大きく、私の圧勝だったので、そんなしょうもないことを考えてしまった。
私が倒した怪人からシュウウと灰色の煙がモクモクと立ち上る。
この煙は怪人が正しく浄化された証拠のようなものだ。
煙が晴れると、そこには特に何の変哲もなかったかのように、少年が地面に倒れている。
怪人とは元々は実態のないものなのだが、普通の人間の負の心に呼応してその人間に乗り移る性質がある。乗り移った後はその体を変化させ、世間一般でいわれているような怪人となり、暴れ出すのだ。
怪人へと変化すれば、不思議な力を使えるようになり、怪人に意識が乗っ取られる。
そして怪人は、密かに抱えていた元々の人間の欲を無理やり満たすような行動をする。周りの迷惑など考えずに強引にだ。
さらに怪人は普通の武器などの攻撃が全く効かない。ほぼ無敵のような存在なのだ。
「ふぅ…なんで怪人ってやつは魔法少女しかダメージが与えられないのかねぇ…」
私はため息を吐く。
そんな無敵の怪人にどうやって対処するのか…そう。魔法少女だ。
魔法少女にしか怪人にダメージを与えることができなく、魔法少女が倒すことで、乗り移られた人間は浄化され普通の姿に戻るのだ。
その後、浄化された人にアフターケアをして負の心を晴らしてあげるまでが一般的な魔法少女の主な活動だ。
まあ私はアフターケアは苦手なので他の人に任せっきりなのだが…得意なことはぶん殴ることだけです!後片付けは任せました!
ヒューヒュー!
かっこいい!
ドレス姿似合う!
流石魔法少女だぜ!
目の保養になりました!
おじさんあつくなっちゃった!
結婚してくれー!
姫ちゃん素敵!
闇堕ち魔法少女様かっこいい!
遠くから私の戦いを見ていた野次馬共がお祭り騒ぎをしだす。戦いが終わると弾けるように騒ぎ出すのはいつものことだ。騒いでいる連中にはおっさんと若い女性が多い。
私は魔法少女としては変わった格好と戦い方をしているせいか、おっさんと変な女に好かれやすいようなのだ。
「おい最後のやつ!だれが闇堕ち魔法少女だ!変な呼び方するんじゃねぇ!あと姫って呼ぶな!」
私はファン達に注意をする。
だが、ファンはツッコミくらいとしか思っておらず、喜ぶだけだった。あのー、ファンなら言う事聞いてくれませんかね?
このように、私は少し変わった魔法少女なせいか、色々な呼び名で呼ばれている。その中には不名誉なものも沢山ある。
ちなみにお姫様という意味で姫ちゃんと呼ばれている訳では無い。私の本名が姫というのだ。星川姫。それが私の名前。
姫という名前は気に入ってないので私のことは名字で呼んで欲しい。お姫様に憧れているような女の子じゃないのだ。しかももう中1だし、お姫様扱いされるのは流石に恥ずかしい。
私は普通に本名を呼ばれているが、本来は変身前の魔法少女の正体がバレることなんてない。
だが、私の場合は少し他の魔法少女と違う事情があり、すっかり正体が浸透している。
そのことについて内心苦い思いを感じていると、戦いが終わった私に、フードを深くかぶったチンマイ女の子がテクテクと近寄ってきて、私に話しかけてくる。
「帰ろ」
この女の子は私の大好きな唯一の親友。名前はユリア。どちらかというと無口で、話す言葉がいつも少し言葉足らずなのが特徴だ。私と同い年で、身長はかなり小さめ。常にムスッとした表情かつ、目つきがデフォルトで悪い。
身長は小さいけれど、顔や表情が原因で普通にしていても見下されているように見えてしまう。そのせいで周りから浮いた存在になってしまっているが、マイペースな性格故、本人は全くそのことを気にしてはいない。
ユリアは魔法少女と怪人についての研究が趣味なので、私が戦っているのをよく観察できるよう、いつも私が戦っているところの近くにいる。
私達は二人でピッタリと並んで帰る。歩いているとき、何故かいつも私が右側でユリアが左側だ。大概その並びなので、逆だと少しきまりが悪い。
私は中学1年にしては大きい方なので、小さいユリアと二人で並んでいるとかなりの身長差がある。
「おまたせ~帰りにあそこのハンバーガー屋に寄ろうぜ」
「うん」
私は魔法少女の変身を解き、ドレス姿からギャルっぽく着こなした制服姿に戻る。
ちなみに制服は改造してかなりのミニスカートにしている。理由はただ一つ。そのほうが可愛くて好きだからだ。
「相変わらず…」
「それ以上は言うな。私もなりたくてこうなったわけじゃないから」
ユリアの言うことを遮り、言い訳をするように早口で喋る。
ユリアが言いたかったのは、私の変身後の魔法少女らしからぬ格好のことだろう。
私の変身姿は何故か露出が多く、背中のパックリ空いた黒のキャバドレスに、両耳に大ぶりのピアスをつけたセクシーな格好なのだ。
こんな格好のせいで、私を闇堕ち魔法少女と呼ぶ人もいるのだ。
普通の魔法少女の衣装はもっと色が明るくてフリフリしたような可愛い格好なのだが、どうしてか私の衣装はとってもシンプル。ほんと私だけなんでこんな衣装なのだろうか…
ちなみに魔法のステッキすら私はない。だから肉弾戦をすることしかできない。
「私は正式な魔法少女じゃないから仕方ないだろ」
「面白い」
ユリアは私が心底興味深いようで、目を輝かせながらそう呟く。
こんな珍妙な姿になった原因は、私が正式な魔法少女ではなく、後天的に魔法少女になってしまったからだろう。
この世界の魔法少女は、生まれながらにして自分が魔法少女であると自覚している。後天的に魔法少女になることなんてない。
だから、私のように後天的に魔法少女になるなんてことはありえないことなのだ。
じゃあなんでお前は魔法少女なのかって?…知らねぇよ!なんか魔法少女になってしまったんだよ!
「おそらく姫に前世の記憶があるのが原因」
「姫って呼ぶな!ったく…なんでこうなったかなあ」
ユリアの言葉に突っ込みつつ、私は頭をポリポリ掻きながらため息をつく。
そう。私には前世の記憶がある。まあ前世の記憶があるだけの普通の女の子だと自分では思っていて、今の私にはなんの影響もないと思っていたのだが…どうやらそうではなかったらしい。
前世は日本という国に暮らしていて、娯楽小説を読むのを趣味としている普通の社会人の男だった。
私と前世の男とでは、趣味や性格、性別までもがまるっきり違うし、世界すらもまるっきり違うので、前世の知識なんてまったくと言っていいほど役に立たない。
前世との唯一の共通点といえば、前世の男は妹属性を、私は実際の妹を愛しているということくらいだろう。
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