第22話 ダクネスと呪われし剣

ある日の朝。ギルドの掲示板前に、奇妙な空気が漂っていた。


「おいおい、なんだよこれ……」


カズマは眉をひそめ、張り出された依頼書を睨みつけた。


『廃教会の地下より出現した呪われし武具の調査と回収』


報酬は高い。だがそれ以上に――


「呪われてる武器とか、嫌な予感しかしねぇんだけど」


「ふむ……呪われた武器、ですか」


めぐみんが興味津々で書類を覗き込む。


「それってつまり、触ったら正気を失ったり、意識を乗っ取られたりするやつなんですか?」


「お前ちょっとワクワクしすぎだぞ。ゲームで言うとバッドステータス装備の最たる例だろ」


そんなやり取りをしていると、背後からズンズンと迫る気配。振り返ると、満面の笑みを浮かべたダクネスが立っていた。


「その依頼、私にぴったりだな……!」


「え、なんで……」


「呪われた武具に心を試されるなんて、なんて素晴らしいシチュエーションなんだ……! しかも地下遺跡で拘束されるかもしれないなんて……!」


「うわ、ダメだこいつ完全にやる気スイッチ入ってる……!」


嫌な予感しかしなかったが、報酬の魅力には勝てず。結局、カズマたちは依頼を受けることにした。


廃教会の地下。湿った空気と、かすかな霊的なざわめきが漂っていた。


「見てください、あれ……」


ウィズが指差した先、祭壇の上にぽつんと置かれた一本の剣があった。漆黒の刃に赤い宝玉が埋め込まれ、見るからにいわくありげな代物だった。


「どう見ても呪われてるな……」


「すごい……なんて邪悪で、美しいフォルム……!」


ダクネスが恍惚とした表情で剣に近づこうとした。


「おいダクネス、絶対触るなよ!? ギルドの人も“観察してから慎重に持ち帰れ”って言ってたじゃんか!」


「私は騎士だぞ、呪われた剣ごときに心を奪われるわけが――」


その瞬間だった。


剣に手を伸ばしたダクネスの体がぴたりと止まり、がくりと膝をついた。


「……あれ?」


「やばい! ウィズ、なんか呪い的なやつか!?」


ウィズが急いで駆け寄り、ダクネスの様子を確認する。


「……うーん、これは……精神に干渉する呪いですね。でも、完全に乗っ取られたというわけではないです」


「じゃあ大丈夫なのか?」


「問題は……このまま放っておくと、本人の趣味と呪いがシンクロして、余計に厄介なことになる可能性が……」


「うわ、最悪だそれ!!」


めぐみんが小声でつぶやく。


「ある意味、ダクネスにとっては理想的な呪いだったということですね……」


「ツッコむ元気も出ねぇよ……」


数時間後。ウィズとめぐみんの協力でなんとか剣を封印し、ダクネスも正気(?)を取り戻した。


「……すまない。どうやら一時的に快楽に負けてしまったようだ」


「一時的どころか、テンション上がりすぎて“そのまま従者になってもいい”とか言ってただろ!」


「うぅ……でもあれほど私の性癖に刺さる剣は初めてだったんだ……!」


「黙れ! その話はもう終わりだ!」


結局、呪われた剣はギルドの専門家によって処分されることになった。


依頼達成。だが疲労感は、報酬以上に重かった。

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