【お題:カタリテ】

 これは英雄譚と言うには物悲しい御話。世界が今よりも混沌としていた時代、未だ神々が争っていた頃の事であります。

 神々の祝福を受けた英雄と、その勇敢な仲間達は邪悪なる魔を打ち倒す為の旅をしておりました。旅の中途では魔に襲われた村や人々を助け、助けられた者達は皆一様に旅の無事を祈るのでした。

 そんな中、英雄達が助けた者の中に、愚かで無謀な若者が居ました。彼は自らの力を過信し、英雄達の一行に加えて欲しいと願ったのです。英雄は道程の危険を説きましたが、それでも彼は折れず、最後には同行を許されました。…それが、後の不幸の始まりだったのです。

 彼が居る事で、英雄達の歩みは確実に遅くなりました。彼が居なければ、間に合い救える命が有りました。彼を護る為に、勇敢な戦士が盾となり散りました。愚かな若者は、漸く自身の身の程を知り…しかし、英雄は若者を責めませんでした。それがどれだけ若者の心を追い詰める結果となったのか、きっと英雄には理解出来なかったのでしょう。


 英雄達が気付かぬうちに、心砕けた若者は彼らの元を去りました。それでお終い、英雄達は元通りに旅へと戻る…その筈だったのです。しかし人知れず消え去るには、若者は英雄達と時間を共にし過ぎていました。野垂死のうとした若者はとある存在に拾われ、問われたのです。世界を思い通りに出来る力が欲しくはないか、と。哀れで無力な若者は、その言葉に抗う事が出来ず……受け入れてしまったのです。打倒するべき魔の誘惑を。


 こうして若者はワザワイを注がれる器となり、英雄達の敵と成り果てました。魂まで侵され、視界すら曖昧だった若者は、英雄達が若者を斬り伏せ終わらせてくれる事を願いましたが、しかしその願いは叶わなかったのです。

 英雄は神々の祝福…魔を祓う聖なる力、禍-ワザワイ-を消滅させる為に必要な力を、若者を救う為だけに使いました。それこそが邪悪なる魔の狙いだと、分かっていたにも関わらず。

 若者は救われました。そして、邪悪なる魔は英雄によって滅ぼされました。しかし魔が消えた事でワザワイは満ち足り、解き放たれ、終には世界を蝕み飲み込みました。只一人…注がれた聖なる力によって護られた、愚かな若者を除いて。


 …そうしてこの世界は滅びました。英雄もその仲間も、神々すら消え去り、残されたのは若者とワザワイ、そして祝福の残り香だけなのです。…私の愚かな顛末を、聞いてくださり有難う御座いました。きっと、この祝福が未だに残っていたのもこの時の為だったのでしょう。さぁ、異界からの迷い人よ。この滑稽な悲劇に、幕引きを。

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