お題【君がそう望んだから、僕はその手を離した。】-2



 これは後世に伝わる事の無い、神話になる事もなかったありふれたお話。神々の時代は黄昏を迎え、世界が人の手へと受け渡されようとしていた頃のこと。


「彼らは最早、我々古き者の手など必要とはしていない」


「…いいえ。人の子には庇護が必要です」


 未だ残された二柱の神が言い争っていた。交わらぬ主張は先に進まず、やがて諦めた様子で片方が背を向ける。


「…ならばすがり続けるがいい、最後の神よ。願わくば、その結末が穏やかであるよう」


 その言葉を残して、背を向けた神は消えていく。残された片方は、引き止める言葉を見失い只手を伸ばす事しか出来なかった。


――――――――――


 そして、人々は最後の神の祝福が残る土地で暮らす事となった。神の手の届かぬ荒野は怪物が闊歩し、文明が根付く事も無い不毛の地と化している。荒野との境は障壁に阻まれ、人も怪物も通ることは能わない。


 そんな緩やかな停滞に包まれた世で、残された神のもとに一組の人間がやってきた。二人は外の世界、庇護無き荒野を生きる事を望んだ。その言葉に、神は首を横に振る。


「…いいえ、いいえ。どうか、そんなことを言わないで。どうか、貴方達のことを、護らせて頂戴」


 それは、まるで幼子の我儘のようだった。


「…神様。貴方の手が無くとも、私達はもう大丈夫です。ですから…どうか、お休みください」


 告げられる訣別の言葉に、神は悲しむように目を伏せる。


「…本当に、行ってしまうのですね」


「はい。…神様。今まで、有難う御座いました。貴方の事は、きっとどれだけ経とうとも、忘れる事は無いでしょう」


 そうして、神の庇護を出た人々は、怪物を征し、荒野を耕し、文明を広げていった。…人がそう望んだから、神はその手を離した。これは、それだけのお話です。

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