お題:【情を知り、愛を知る】-2
刃たれと、この世に生を受けてから言われて育った。初めて命を奪ったのは、物心ついた時だったろうか。握らされたナイフで、身動きを封じられた動物を手に掛けたのを覚えている。それが何度も繰り返されるうちに、相手は段々と大きな生物になっていき、その果てには人を相手に同じようにナイフを振り下ろしていた。
それからは、いかに相手を仕留めるかを叩き込まれた。正面からの殺し方、不意の突き方、疑われない為の手法。繰り返される度に研ぎ澄まされていき、十を越える頃には初めての仕事を終え、一人前と扱われるようになっていった。
只刃として扱われ、与えられた役割を機械的に果たしていく。己に有るのはそれだけだと思っていた。それ以外を知らなかった。知らなかったから疑問すら抱く事無く、曇り無き刃で在れた。
…それが変わったのは、十五の時。初めて、殺し以外の仕事を与えられた時の事だった。内容は、護衛任務。同じぐらいの歳の人間の傍に居て、刺客が来た場合は返り討ちにするというだけの事。明確な標的が居ないという事実には困惑したが、やる事自体はそう変わらない。その筈だった。
「…まるで、お人形みたい」
護衛対象に会うなり、そんな事を言われた。無防備に手を伸ばされ、頬に触れられる。その気になれば十回は殺せる程、隙だらけだった。その手を避ける事は、猶更簡単だった筈なのに……不思議と、そうする気にならなかった。
それから暫くの間、護衛対象と共に時を過ごした。後から思えばそれは、生まれて初めての、穏やかな時間だったのかもしれない。狭い一室の中で襲撃を警戒し続ける中で、護衛対象は飽きもせず話しかけてきた。初めは無視をしていたが、いつまでも続く問い掛けに根負けし、一言返してしまったのが運の尽きだった。それからずるずると交わす言葉は増えていき、そのせいか次第に余計な事を考えるようになっていった。
…そうした日々は、当たり前だが長くは続かなかった。部屋の扉が唯一開く食事の時間、開けられた扉から入ってきたのは、何時もの果物が乗ったトレイではなく投げ込まれた
狭い部屋の中に、武装した刺客が踏み入ってくる。人一人に対しては明らかに過剰な装備に身を包んだそいつは、護衛対象に向けて迷わず銃を向け……破裂音が、響いた。赤い飛沫が、部屋中を濡らす。見慣れた中身を撒き散らしながら倒れたのは、引き金に指をかけた刺客の側だった。何故、という疑問が頭を過る中、再び強い衝撃に見舞われ壁に叩きつけられる。意識が断絶する間際に見たのは、いつも穏やかな笑みを浮かべていた護衛対象の、感情の抜け落ちたような不気味な顔だった。
――――――――――
あれから、一か月が過ぎた。怪我も治り、再び護衛対象の前に立っていた。…今度は護衛ではなく、始末を付ける為に。相対し、片手に刃を持つ自分へと、護衛対象は初めて会った時のように近付いてくる。
「…うん。君は、その方がいいよ。その方がよっぽど——らしい」
敵意も無く、再び頬に手を伸ばされる。頬の雫を指で掬われて、漸く自分が泣いていたのだと、気が付いた。
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