《浄化》の力と王都の異変

 魔族を倒してから、しばらく俺は呆然としていた。

 ──ただ掃除をしていただけの男が、神剣を握って魔族を一刀のもとに斬り伏せる。

 そんな展開、物語の中だけだと思っていたのに。


 


 『落ち着け、レイン。我が力と汝の精神は、既に融合し始めている』


 「……つまり、もう元には戻れないってことか?」


 『否。選ばれし時点で、世界の命運の一部を担う宿命となった』


 おいおい。

 そんなの聞いてないんだけど。


 


 ──と、その時だった。


 「なんだ今の音は!? 封印の間からか!?」


 「誰かいるぞ! 中に入れ!」


 ドタドタと兵士たちの足音が近づいてくる。

 まずい。この状況はまずい。


 


 扉が開き、十数名の兵士たちが雪崩れ込んできた。


 「お前……ここで何をしていた!? この魔族の死体……お前がやったのか?」


 しまった、説明できるはずがない。

 何より、俺は“ただの掃除係”だ。


 


 だが兵士たちは、俺の手に握られた神剣レヴァナントを見て目を見開いた。


 「そ、その剣……まさか……!」


 「封印されていた神剣……なぜ、お前の手に……」


 


 『……騒がれるのは好ましくない。主よ、今はこれを』


 神剣がぼんやりと光ると、手の中からふっと姿を消した。

 まるで最初から何も持っていなかったかのように。


 


 「……ただ、掃除をしていただけです」


 俺は、できるだけ落ち着いてそう答えた。


 「……! 封印の間を……たった一人で掃除していたのか……?」


 「この魔族……お前一人で倒したとは考えにくい。だが、ほかに誰もいない」


 「まさか、あの《掃除スキル》が、実はとんでもない能力だったとか……?」


 


 兵士たちは勝手に勘違いを始めた。

 どうやら、俺が《掃除》の力で魔族を消し去ったと解釈したらしい。


 


 「記録しておけ。“雑用係レイン、封印の間で魔族を単独撃破”と」


 「こいつ、ただ者じゃないぞ……」


 あれよあれよという間に、俺の名前と噂は王城中に広がっていった。


 


 ──その夜。


 王都の片隅、古びた礼拝堂の奥で、一人の老司祭が目を覚ました。


 「……まさか、神剣が目覚めるとは。時が動き出したのか……?」


 天の星は、今、かつてないほどに鈍く濁っていた。


 


 一方その頃、王都の地下。

 魔族たちの残党が、密かに集結を始めていた。


 「神剣が選定したか……ならば、我らも“目覚め”の準備を進めねばな」


 魔王アゼルの復活。

 それは、ただの伝説ではなかった。


 


 ──知らぬ間に、世界の大きな歯車が動き始めていた。

 そしてその中心に、なぜか“俺”がいるらしい。


 


 「……マジでどうすればいいんだよ……」


 俺は、ベッドに寝転びながらため息をついた。

 だがその手のひらには、かすかに温かな光──神剣の名残が、静かに残っていた。

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