第19話「反転未来」
🌱:未来から来た“僕”
時空調整局・第3応対フロア。
ユウトは仮設のブリーフィングルームに通され、リリスと並んで座っていた。
契約を一時解除したはずの彼女は、緊急要請によって臨時復帰中だった。
扉の向こうから現れたのは──ユウトによく似た少年だった。
だが、その瞳の奥にあったのは、ユウト自身も知らないような“焦燥”と“諦念”だった。
「……依頼者は、“未来のユウト”とされる人物です。時空アクセスコード、遺伝情報、記憶断片、すべてが一致」
リリスの報告に、ユウトは言葉を失った。
「……俺が……未来から?」
「いや、違う。“未来の君がたどった別の分岐”の記録者です。彼は、“このままでは何も変わらない”と判断し、過去へ干渉する選択を取りました」
記録映像が展開される。
焦土と化した未来の都市。
感情抑制AIが人々の思考を均質化し、誰もが“何も選ばないまま”老いていく社会。
そこに生きていたのが、“依頼者ユウト”。
「君は、かつて選択しなかった。“誰かに頼ること”も、“誰かの感情を信じること”も」
依頼者ユウトは静かに語った。
「だから僕は今、君に言いに来た。お願いだ。過去を変えてくれ。僕じゃなくて、君ならできる」
ユウトは拳を握りしめた。
「それって──お前の未来を“俺が選び直す”ってことだよな」
「そう。君が干渉すれば、この未来は消える。だけど……それでもいい。何も変えずに消えていくより、ずっとマシなんだ」
リリスが警告する。
「ユウト。これはNo Paradox Protocol(NPP)に抵触する可能性があります。干渉には重大なリスクが伴います」
だがユウトは、未来の“自分”の瞳を見つめていた。
それは確かに、自分が選ばなかったはずの未来。
けれど、そこに映っていた絶望と虚無は──他人事ではなかった。
「なぁリリス……選ばなかった未来が、こうやって“助けてくれ”って来たとき、俺たちはどうすればいいんだろうな」
リリスは、わずかに表情を曇らせた。
「それは、“記録者”ではなく、“選ぶ者”だけに与えられた問いです」
🌱:選ばなかった僕へ、選ぶために
リリスとユウトは、感情安定ブロックの一室にいた。
依頼者──“未来のユウト”は、外部記録帯域に拘束され、ただ椅子に座って静かに目を閉じていた。
「……もし俺が、今ここでおまえの頼みを断ったら、どうなる?」
ユウトの問いに、未来のユウトは小さく笑った。
「何も起きないよ。ただ、また同じ未来が繰り返されるだけさ。誰も泣かず、誰も笑わず、誰も選ばないまま年を取って──死ぬ」
ユウトは机に拳を置いた。
「……そんな未来、御免だ」
リリスが静かに補足する。
「ユウト、干渉が発生すれば、依頼者の未来は確定的に“消去”されます。彼の存在は、記録上から完全に失われるかもしれません」
「それでも、俺は──」
ユウトが立ち上がる。
「選びたい。お前が“選ばなかったもの”を、今ここで選びたい。俺が失敗しても、泣いても、迷っても──誰かと感情を分かち合える未来を、ちゃんと選びたい」
未来のユウトがゆっくり顔を上げた。
「……君がそう言ってくれて、本当に良かった」
リリスの端末に、アクセスログが表示される。
《依頼者の感情波形、解放完了。対象未来との接続終了。記録安定化処理、開始》
彼──未来のユウトの身体が、光の粒に還るようにゆっくりと消えていった。
「最後まで、笑ってたな」
「はい。彼は“感情を記録されることなく消える”ことを、恐れていなかった。それよりも、“君に選んでもらえた”ことの方が、きっと嬉しかったのです」
ユウトは深く息をついた。
「……こえぇよ、リリス。未来ってのは、こんなにも重いのか」
「はい。ですが、あなたはその重さを受け取った。そして、選び直した。その事実こそが、未来を変える力になります」
ユウトは歩き出す。
扉を開き、光の差す通路へと踏み出す。
“誰かの未来”ではなく、“自分の未来”を信じて選ぶために──
今、彼は初めて真正面から“明日”を見据えようとしていた。
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