9 詰んだ場所

 送られた場所は、噴煙を上げるかつ火山の真上だった。

 このまま落ちれば、溶岩の海で焼け死ぬだろう。

 世界が平和とか、魔物がどうとか、そういうものはいっさい関係ない。誰にも関わらず、ただここでひっそりと死を迎えるのだ。

 命綱がなかったらの話だが。


「うわ、こんなに離れててもあっつい」


 彼女の体は、何もない空間から伸びたロープによって、吊るされていた。


「はやく引き上げてちょうだい、熱いから」


 上に向かって彼女が叫ぶと、ロープの端あたりに穴が開き、そこから彼が顔を見せた。


「どうして命綱なんてつけてるんですか!」

「命綱大事だよね。安全第一!」

「そういう問題じゃないです!」


 彼は何かの刃物をちらりと見せたが、大きなため息をついて、それを手放した。

 どうやらそれは、禁止事項らしい、と彼女は思う。


「じっとしててください、すぐに引き上げますから」


 穴の中は、あの白い世界だった。荒涼とした砂漠ではなかった。


「一人だけここに戻ってたんだ。ずるい」

「あんな場所に残っていても仕方ないでしょう。それより、すぐ次の世界へ行ってもらいますよ」


 彼の額に輝く汗は、はたして、彼女を引き上げた労働のせいだろうか。


「どうしてそんな急いでるの」

「急ぐんです。とにかく、次はきちんと人のいる場所に送りますから、よろしくお願いします」

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