第2話 女神とのひととき
「あ、あはは…なんとか大丈夫そうです」
地面に寝そべりながら、目の前の美人のお姉さんに作り笑いを浮かべて答える。するとどうしたことか?お姉さんはベンチから立ち上がり、俺に手を差し伸べてくれているではないか–––。
『痛くない?立てそう?』
「女神がこんな所に降臨していたとは…」
『えっ?』
「すみませんなんでもないです。よっと…手を貸していただいてありがとうございます」
このお姉さんが慈愛に満ち過ぎて女神に見えた、なーんてのはクサ過ぎてとても言えなかった。
でもお姉さんのあったかくて柔らかい手の感触…帰っても手を洗いたくないなぁ。
『ううん、いきなりワンちゃんに人が引き摺られて来たのにはビックリしたけど』
「普段はこんな爆走かますやつじゃないんですけどねぇ」
『そうなんだ。じゃあ春の陽気でおもいっきり走りたくなったとか?』
「それよりはお姉さんに惹かれてここまで走って来た、って方が説得力あるかもですね」
『えー?そんな風に言われると照れちゃうなぁ…。それよりさ、お姉さんじゃなくて私、樋口みずほ!みずほって呼んでよ』
「じ、じゃあ…みずほさんで。俺は雪村晴人、俺の事も晴人でいいですよ」
『うん、晴人くんね。今までこの公園に来た事なかったけど、広くて緑も多いしいい所だね』
「本当ですね。俺はみずほさんと会えましたし、最高の場所ですよ」
『もう、君って随分口が上手いのね?あとそんなに歳も変わらないと思うし、敬語もいらないわよ』
「みずほさんがそう言うなら…ちなみにそのチワワの名前は何て言うの?」
『この子はね、サニーって言うの。日が照るとかのsunnyね』
「へぇ、いい名前だね。俺も名前が晴人だからちょっと親近感湧くかも」
『ふふっ、サニーと晴人くんも仲良くなれそうね♪ね、晴人くんが連れてるゴールデンレトリバーは何て言うの?』
「スノーだよ。雪村の苗字から取ってsnow。安直なネーミングでしょ?」
『ううん、分かりやすいしいいと思うな。ちょっと触ってみてもいい?』
「勿論!でも一応人見知りだから気をつけて…って、えぇ⁈」
いきなりスノーがみずほさんにジャれついてる…この食いつきようはやっぱり女神だったのかと思わせられる。
『きゃっ、くすぐったいよ♪あはは、凄い懐いてくれて嬉しい!人懐っこくて、メチャクチャ可愛いね♪』
なんて羨ましいやつめ…俺と代われ!などとも言えず、俺もサニーちゃんを撫でさせてもらった。
『サニーも人見知りの筈なんだけど、晴人くん相手だと落ち着いてるね。やっぱり名前が近い効果もあるのかな?』
「はは、だといいけど。みずほさん、折角こうして出会えたんだから座って話さない?」
『うん!こういう犬を散歩してる時に出会った人と話すのって、憧れてたから嬉しい♪』
こうして女神…もといみずほさんとお互いの犬の話で盛り上がった。まだまだ話し足りないって思うけれど、めいも待ってるしそろそろ帰らないといけないよな–––。
「ごめん、みずほさん。もっと話してたいけど、家で妹が待ってるから…」
『あ、こっちこそ引き止めちゃってごめんね。妹さんいるんだ?』
「うん、俺の中では世界一可愛い妹だよ」
『あはは、私は一人っ子だから羨ましいなぁ。今はサニーも居るから寂しくないけどね。ねぇ…また会えるかな?』
「春休み中は天気が良かったら、いつもこのぐらいの時間に公園で散歩してるよ」
『うん、分かった!私も今日と同じぐらいの時間に散歩に来るからさ。このベンチの前で…待ち合わせ、しよ?』
…そんな顔でお願いしてくるのは反則だろ。断れる男なんて存在するのか?いや居ない!
「約束するよ。それじゃあまた明日!」
『っっ、また明日ね!待ってるから!』
とても無邪気で嬉しそうな顔をしたみずほさんを見て、明日も必ずこの時間に来ようと心に誓うのだった。
そしてみずほさんの事で頭がいっぱいになっていた俺はすっかりコンビニに寄り忘れてしまい、めいに再度買いに行かされる羽目になってしまった–––。
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