第12話 「護ル刃ノ咆哮、見守ル瞳」

【模倣体・構造変化】


春陽の始解により、霊圧の“波”が逆転する。


模倣体は一歩、無言で後退した。


その身体の表面――

今まで“紫音”に似せていた輪郭が、

“春陽”へと変わり始めていく。


空斗「……こいつ……“今の春陽”を模倣しようとしてる」


「癒し、護り、包む……その“本質”まで、真似する気か……」



春陽・静かに、歩を進める。

もうそこには震えていた時の彼はいない。


春陽「……俺のこと、模倣しても意味ないで」


「俺の“刃”はな――

人を斬るためにあるんとちゃう」


「誰かのために在るって、

それはつまり……“俺自身”にしかできない」



【紫音、ゆっくり意識を取り戻す】


うっすらと目を開き、

呼吸が浅く戻ってきた。


紫音「……あれ、これ夢か……?

春陽がなんか……めっちゃカッコええんやけど……」


空斗がそっと肩に手を置く。


「安心しろ。夢じゃない。

お前が命張って、“繋いだ刃”の今の姿だ」


紫音「……そっか、繋がったんやな。

あいつ、ついに……」



【模倣体・斬撃開始】


模倣体が腕を振りかざす。

だがその斬撃は、以前よりも不明瞭だった。


霊圧の“型”が、春陽に似すぎて、

“攻撃”としての機能が曖昧になっていた。


春陽は一歩踏み込み――

斬魄刀を逆手に構え直し、静かに言った。


「包め、“護羽”――陽結の羽衣(ようけつのはごろも)、展開」



【羽が宙を舞う】


白金の羽が、風に乗るように模倣体を包囲する。


触れた瞬間、模倣体の霊圧がバラついた。

“敵意”という概念にすら干渉する、

優しすぎる霊圧。


模倣体の肩口から、蒸気のようなものが上がる。


春陽「“誰かのために在る”刃はな、

敵にすら――“抗う理由”を、忘れさせるんや」



【模倣体・最後の抵抗】


形が崩れながらも、

霊子を濃縮し、最期の一撃を構える。


だが春陽は、目を細めて前に出る。


「……俺はもう、怯えへん」


「これが――

“俺が護りたいもののために振るう刃”や!!」



【決着・斬撃】


振るわれた白金の刃が、

静かに模倣体の中心を貫いた。


一閃――


だが“断ち切る”のではなく、

包むように、浄化の羽が広がる。


模倣体の霊子が優しく分解され、

“名も持たなかった魂”は、

ただ静かに、空へと還っていった。



【静寂の後】


風だけが残り、

白金の羽がひとひら、

空斗と紫音の前にふわりと舞い落ちる。


空斗「……斬ったんじゃない、“救った”んだな」


紫音「はは……マジで、春陽やんか……

アイツの刃、やっぱ優しいんやな……」



【春陽・背を向けたまま、ぽつり】


「紫音、空斗……

ありがとうな」


「俺、ちゃんと――

この刃、護れるようになったわ」



戦いは終わった。


だがそこに残ったのは、

傷ではなく――想いだった。


仲間を護る刃。

傷を抱えたままでも、立ち続ける魂。


春陽という男が、

“その名”を持った今。


五番隊の“信念”は、またひとつ、形を得た。

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