第4話 「刻マレシ痕、解カレヌ層」

【午後・戦闘直後】


斬り倒された虚の体が、

蒸発するように溶けて消えていく。


紫音が肩を軽く回しながら、

変わった調子で口を開く。


「……なぁ空斗、あいつらの中身、明らかにおかしかったよな」


空斗はすでに測定器を展開し、

数秒前の霊波記録を巻き戻している。


「うん。特に3体目。

紫音の毒を受けた個体の“霊圧分布”が、

通常の虚とは全然違ってた」



【空斗の言葉に春陽が眉を寄せる】


「違うって、どないに?」


空斗「本来なら“崩壊”するはずの霊圧が、

逆に“融合”しようとしてた」


「……“名前のない魂”を寄せ集めて、

ひとつの仮初めの個体を構成しようとしてた、みたいな」


紫音「……ゾッとするわ」


春陽「虚って、そんな合体ロボみたいな真似、普通できへんやろ」


空斗「だからこそ、異常なんだよ」



【空斗・分析を続ける】


「そして……もう一つ」


「紫音が斬った“初撃”の反応、

“毒”としてだけじゃなく、“魂の層”にも波を入れたみたいなんだ」


紫音「ほぉん?俺の蝶、意外と深う刺さってんねんな……」


春陽「でもそんなん、俺らもやられてへんか?」


空斗「いや、違う。“共鳴”してたのは虚だけ。

紫音や春陽には、その波が通り抜けてただけ。

この反応……“魂のねじれ”を吸うような性質があったのかもしれない」


紫音「なんかよーややこしくなってきたな………」


______________________________________


【焚き火の準備を始めながら】


空が夕焼け色に染まり始める。

戦闘のあとの静けさが、空気を少し落ち着かせる。


春陽が荷から小鍋と具材を取り出しながらぽつり。


「ちょっと怖いなぁ。

“知らん誰かの魂”を集めて形になっとる虚とか……

なんか、“名前”を失うって、そんな怖いことなんかって思うわ」


紫音「名前って、ほんまに“魂の一部”なんやな……」


空斗「だからこそ、護る価値がある」


春陽「俺らは副隊長から”嫌と“と言うほど眼と身体で教えてもらってるからな」





斬ったあとに残ったもの。

失われたはずの“魂の痕”が、

不自然に、重ねられているような気味悪さ。


今日の記録は、

明日以降の答えへの鍵となるだろう。


三人はまだ知らない。

この“霊圧のねじれ”が、

春陽という男の“魂”にも波を起こし始めていることを――



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