生後2か月
赤ちゃんのことを愛しているのかどうか、よくわからなくなった。
生後2か月経って、生活に飽きとか、疲れみたいなものが出てきた。顔を見ているだけで、ほんとうにかわいい、かわいいとこみ上げるものが少なくなった気がする。
生まれたばかりはいつも思っていた。「かわいい、かわいい」と心から言っていた。
今ももちろん、とてもかわいい。でも大声で泣かれると、それを鎮める方法がわからないと、怖くなってしまう。夜に寝てくれないと、怖くなってしまう。こんなことではだめだと思う。もっと無条件に、手放しで愛せないといけないと思う。そうでないと、外見がかわいくて健康な今はいいけど、病気になったり、外見が変わったり、自我が出てわがままを言うようになったらどうなるんだろう。怖くて仕方がない。自分の子どもを愛せなくなるのはすごく嫌だ。愛しているからこう思うのだろうか。子どもが自分の愛せるものであってほしいというエゴなのかもしれない。
赤ちゃんにまつわるもの、哺乳瓶の清潔とか、病気の予防、具合が悪くないかの判断、などはとてもプレッシャーがある。絶対に取り返しがつかないのだと思う(そのわりにしっかり清潔にしていると言えないけども)。そういう動悸のする感じ、追い詰められた感じは、赤ちゃんが大事だからこそ湧くのだろうと思うし、それはつまり愛だと思う。でもこんなにしんどい気持ちが愛というのは何か違うのではないか、という気がする。
もっと楽しい気持ちで赤ちゃんに接したい。
赤ちゃん教室で習った歌を歌いながら、スキンシップをする。おなかをなでたり、手足をぎゅっと握ったり、頭をなでる。「ぞうきん、ぞうきん」と言いながらおなかをぞうきんで拭く真似をすると、笑っている。喜んでいるように見える。
・かわいいところ その1
目と口でにやーり、にこーりと笑う顔。
「うー(小)、うー(中)、うー(大)!」と強弱をつけたり、「ふう…」とささやいたりする。ちゃんと考えて、何かをこちらに伝えようとしているように思える。まだそんな思考力があるとは思えないのだけど、受け手はいろいろ意味を汲もうとしてしまう。
・かわいいところ その2
「あー」とか、「くー」とか、しゃべる声。
妊婦の頃に戻りたいなと少し思う。おなかの中にはまだ見ない赤ちゃんがいて、時間はいくらでもあって、周囲から甘やかされていたころ。「ストレスを抱えたら駄目だ。赤ちゃんのために」と自分に言い訳して、自分を追い込まないようにしていた。今思うと、すごく楽に思える。
でもあの頃はあの頃で、出産への恐怖や、気持ちの悪さや、おなかを守ることへのプレッシャーがあった。生まれる前にあれもこれもやらなければという焦りもあった。
だったら、妊娠前はどうかというと、これも焦りがあった。子供を産まないでいいのか、自分のことだけ考える生活でいいのかというもやもやがあった。結局いつだって苦しいし、同時にいつだっていいことが何かしらはある。
今まで、面倒なことはやらずに済ますことができて、自分が不利益になるだけで済んでいた。もしくはお金で解決できた。でも赤ちゃんはやってあげないと何も解決しない。ちょっとお肌のお手入れをさぼったら高い化粧品で回復、とはならない。
夫への余裕がない。私が動いていて、夫が休んでいると、責めたくなる。夫が動いて、私がさぼることもあるというのに。できるだけのことはしてくれているのをわかっているのに。もっといろいろやってほしいという気持ちはあるけど、できないのもわかる。別に怠けているわけではないから。同じ時間だけ作業しても、人によってできる量は違うから。なぜあなたはできないのだと責めても仕方のないことだから。
職場復帰の目途が立ったためか、服への興味が復活する。昔のスカートはどれも入らないから、ワンピースが欲しい。とりあえず2着くらい。あときつくないスカートも。復職後は、髪はショートにする。あるいは伸ばして後ろで結ぶ。さっぱりした外見になりたい。妊娠中に買った金のフープピアスもつけたい。
財布を買った。ずいぶん前から欲しかったやつだ。機能的にも熟考した。赤ちゃんのカード類が増えるから、カードポケットが多いものにした。
夫が「自分に不満があるのではないか。何か怒っているのではないか」と聞いてきた。
とうとう来たか、と思った。産後、特に最近、彼に対する私の態度は悪すぎた。にらんだり、無視したり、同棲中は絶対にしなかったことをたくさんやった。
でも、よく聞くと、「通販の宛名を旧姓にしていた」というのが心配のきっかけだったらしい。旧姓に戻りたがっている、離婚したがっているのかと思ったようだった。単に通販サイトの個人情報を更新していないだけだったのだけど。
誤解は解けたし、お互い少し言いたいことを言い合うきっかけになったし、結果的には良かった。私が離婚したがっていると思って焦るなんて、夫はかわいいなと思った。
赤ちゃんは寝つきが良い。ほかの赤ちゃんの体験談を読むと、何十分も抱っこし続けたり、それで寝ても布団に置いたとたんに起きてしまったり、いろいろ苦労があるようだ。うちの赤ちゃんは、期限が悪い時もあるけれど、5分も揺らせば寝る。スムーズとは言えない手つきで布団に寝かせるせいで、置いたとたんに目覚めることもしょっちゅうなのだけど、大抵はそのままうとうとしてまた眠ってくれる。
布団に寝たまま、ぼんやりして、そのままゆっくり目をつむって眠りに落ちることもある。
ミルクを飲ませている途中で眠ってしまうこともある。膝の上に乗せていると、ほんのり温かい。
・かわいいところ その3
無心で、小さな赤いくちびるをきゅっと閉じて、眠る顔。
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