超翻訳Deep-Nの技術解説

 超翻訳ちょうほんやくことDeep-N(ディープエヌ)の機能についてはもう皆さん大体ご存知ぞんじだろうから、僕からは簡単に一般化いっぱんかするまでの流れを語るに留めることとします。


 この技術は元来がんらい保護猫ほごねこ保護犬ほごけんをトライアル(試しに一緒に生活する期間)において、新環境しんかんきょうとのマッチングを行うために開発かいはつされた技術が転用てんようされたものだ。


 元々はDeep-Lという多言語翻訳たげんごほんやくAIが生まれた時に、単語や文法を解析かいせきすることが可能であれば人間以外の生物の言語も翻訳ほんやく可能ではないか、と研究が始まったことはご存知だろうか。

(密かに軍事技術への転用てんようがあったことは先の大戦の後に明らかになった)

 その当時に言語としてある程度ていど翻訳ほんやくされてた生物として、鳥類ちょうるいでは特にシジュウカラ、カラス、海棲哺乳類かいせいほにゅうるいとしてはイルカ、クジラ、その他に猫、犬、と言った具合だ。

 家の中にいて比較的ひかくてき研究しやすい犬や猫を対象たいしょうに研究が進むのは当然ともいえる。

 当時問題になっていたのは半野生状態はんやせいじょうたいで飼われる猫を室内しつない飼いにするという生態転換せいたいてんかんプロセスにおいて、在住猫ざいじゅうねこ新規猫しんきねこのマッチング、飼い主とのマッチングがうまくいく確率があまり高くないということだった。

 当時は少子化という問題もあり、人が人以外を常に養育よういくする現在では一般的な生態せいたいプロセスの初期と言える時期だ。

 そのため猫のサクラミミという去勢きょせいを示す耳のカットの後にほぼ同型どうけい生体端末せいたいたんまつ装着そうちゃくさせ、脳から出る電磁波でんじは感知かんちのほか、猫の鳴き声や動きから思考を把握はあくする技術が生まれた。

 これはおもに猫の意思いし把握はあくする目的だったが、徐々に猫も人の言語を理解しているということ、何らかの言語により意思疎通いしそつうができないか試行しこうしていることが明らかになった。


 その結果が公表されると「猫の権利を守る活動団体NNN」により、猫の意思の尊重そんちょう主体性しゅたいせいを置くという考えが広まった。


 しかし、 N N Nの求める最低限のプロセスに莫大ばくだいなコストがかかるため、猫を手放す人が増大し、猫カフェブームが起きる。


 この時、生体端末せいたいたんまつを付けた猫が一斉に一箇所いっかしょに集まったことが技術躍進ぎじゅつやくしんつながった。

 猫同士の意思疎通いしそつう、及び人との意思疎通が活発になったことで、猫が人の思考の理解を行うこと、猫同士も生体端末をつけることでより意思交換いしこうかんが活発になるという2点がわかった。


 この現象を見たM◯R◯ネコ代表がDeep-NとDeep-Lを繋いだ。これは地域の英語話者えいごわしゃと保護猫のトライアルのためだったといわれている。

 結果、猫は外国語話者がいこくごわしゃとのトライアルに成功した。その際に猫から日本語にはない外国語の概念がいねんについて質問があった。猫が人の概念を理解するということが判明した瞬間である。


 これが後にいう「概念翻訳がいねんほんやく」の研究への第一歩だ。この結果を(宮沢賢治を輩出はいしゅつしたことで有名な)I大学の農学部で研究を進め、言語の基となる概念を直接翻訳する「超翻訳ちょうほんやく」と呼ばれる技術が生まれた。

 言葉で思考をむ人間が、本来その言葉をうむ過程かていから離れて、特定の事項じこうを指すことになった単語群たんごぐんを一律に概念翻訳がいねんほんやくすることは容易よういではなかった。

 しかし、猫の生態研究せいたいけんきゅう蓄積ちくせきされており、虚偽きょぎの要素が少ない猫の概念は、人=猫間での世界観共有せかいかんきょうゆうを可能とする段階まで研究は進む。

 このことにより猫自身に猫の快適な温度や食事の回数、薬、歯磨きの重要性などを理解してもらい、猫の健康を保持することが可能となったことが画期的かっきてきだった。

 また人では一般的だったアップ◯ウォッチによる健康管理にならい、家庭内のWi-Fiを利用し猫の健康をモニタリングを行うことなどが可能となった。

 これにより生体端末をつけた猫から家庭内Wi-Fi《ホームワイファイ》を駆使しホームキーパーの役割を担うものが現れた。

 これは猫本来の集団生活への志向や子猫を守るための環境保持かんきょうほじの本能にうったえることによるものと言えるだろう。

 ここから概念翻訳がいねんほんやくに猫が本来持つ環境維持かんきょういじへの反応を組み合わせる過程が研究された。結果、主にホワイトワーカーが行う様々な契約処理けいやくしょりや応答について猫が処理履行しょりりこうできるまでに技術革新ぎじゅつかくしんが進む。

 概念翻訳の研究が進んだあたりから犬も伴走ばんそうする形で研究が進み、彼らの狩りへの志向しこうから主に農業分野のうぎょうぶんや林業分野林業分野への技術転用ぎじゅつてんようが起きた。

 今日犬や猫がパートナーアニマルと呼ばれる所以ゆえんである。

 一応専門家としていえることは今後の懸念けねんとして概念翻訳による超翻訳を多種生物たしゅせいぶつ適用てきようすることには警鐘けいしょうを鳴らしたい。


 我々が自然を克服こくふくできていないことが原因だ。 

 つまり野生生物に適用することはコンピュータウイルスに似たカオスを生み出すこととなるだろう。


 例えば、人間はもっとも自己家畜化じこかちくかが進んだ生物と言われ、人との間で生活をするように思考や行動を自然と制限している。このため超翻訳、多種生物共存たしゅせいぶつきょうぞんの中でも一定の規律きりつたもつことが可能だ。

 しかし、言語で概念がいねんむことでその言語のそとにある観念かんねんは理解が難しいとされている。

 これが所謂いわゆる自然しぜん」だ。

 猫や犬についてはすでに人類との共生の歴が長く他の家畜生物と違い、食としても扱われることはない。

 しかし、パートナーという点で犬と比較して猫については家畜として何ら手を加えられておらず自然の要素が多く残っている。

 今後、超翻訳が進むにつれてこの猫の「自然」がどの位置に当てられるかがカオス克服こくふくの一歩になるかもしれない。

 もちろん僕としては猫が永遠にそばにいて我々と快適な環境を送ることを望んでいる。

 しかし、換毛期かんもうきが長くよく寝ている我らの友は自らの非活発性ひかっぱつせいを宇宙航行に充てられるのではないかと考えているようだ。

 先の大戦で内向き思考が強くなった僕たちに宇宙という自然開拓しぜんかいたくを乗り越えられるのか。

 これは我らのパートナーの自然にゆだねることとなるかもしれない。

 ご清聴せいちょうありがとうございました。



 

 

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