メール 短編1話完結

@saba1324

メール

毎朝太陽が上がりきった時間に起きて、過去の自分から届いたメールを見て憂鬱になる。盲目のホームレスのふりをして昼飯をゲットして、土木工事のアルバイトに出かける。こんな生活をかれこれ5年以上続けた。誰に言われるまでもなくどうしようもない人生だった。





22世紀、タイムマシンの開発成功により世間は大きく盛り上がり、想像がつかないほどのこれからの人類の進歩に皆が胸を躍らせた。が、国際法により過去への不干渉、モノ・ヒトの移動が制限されると民衆の生活が大きく変わることはなかった。

では、民衆に分類されないようなアウトロー達の生活はどうだったか。「国際法などくそくらえ」何にも縛られない彼らはタイムマシンを使って『時空間契約』事業を始めた。未来の自分と契約させ、将来の自分が稼いだ金をタイムマシンで現代へ輸送することにより即時で金を得ることができる。自分たちはリスクを負わず法外なタイムマシン利用料を請求することで利益を上げるこの事業は当然に利用してはならない闇金の類である。一度契約すれば働いても給料が決して入らない地獄は容易に想像できるものであり、よほどの馬鹿ではない限り一生かかわることのないものである。


俺はよほどの馬鹿だった。

田舎から東京へ出たばかりのころは、田舎者だとばれないように必死だった。親が丁寧に使えと別れを惜しみながら渡した30万は5日で酒に消えた。その先はもう思い出したくもない。

そんなこんなで毎朝届く『時空間契約 重要』という手紙に操られた生活を送ってきた。


ある日、届いたメールが2通であることに気づく。

1通目 『時空間契約 重要』 忌々しいメールである。


2通目も過去の自分から届いたメールであることは変わりなかった。

タイトルは『おとなになったじぶんへ』10年も昔、12歳の自分だった。


俺は変わろうとした。好きな食べ物も、趣味も、将来の夢も変わってしまったが過去の自分に恥じたくなかった。ひたすら頭を下げてスーツを買った。長時間働けるように土木のバイトをやめてカフェとスーパーで接客を始めた。起きる時間は自然と早くなり、下を向いて歩かなくなった。過去の負債の返済から、未来への投資へと意識が変わるとこんなにも世界の見え方が変わるのかと自分の単純さに笑ってしまった。


そしてついに、借金200万とタイムマシン使用料100万、合計300万を稼ぎ終わった。

アルバイト中に涙を流してしまい、事情を知るカフェのマスターが帰してくれた。長い長い悪夢から解放されたせいか、久しぶりに昼間で寝ることができた。




次の日もメールが届いていた

『タイムマシン不正利用疑惑に基づく捜査のご協力のお願い 重要』

日本語は読めるが、いつまでたっても理解はできなかった。

いつまでもメールを読んでいる。


次の日もメールを読んでいる。


次の日もメールを読んでいる。


次の日も


次も日も


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ある日、メールを読んでいると2通のメールが届いた

1通目 『タイムマシン不正利用の捜査令状発行のお知らせ 重要』

日本語は読めるが、理解はできない


2通目 『タイトルなし』

タイトルはついていないものの、メールの意図はすぐに理解することができた。

それは自分の人生をつづった、未来の自分から届いた遺書だった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メール 短編1話完結 @saba1324

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ