師匠たちの試練
目が覚めた瞬間、カイは自分が“寝床”らしきものに横たわっていることに気づいた。
藁の敷かれた簡素な床、木でできた壁、小さな暖炉の炎が灯る静かな空間。…見たこともない山小屋だ。
「目が覚めたか、坊主」
カイが身を起こすと同時に、扉が開き、無骨な中年の男が入ってきた。剣士のような出で立ちで、腕の筋肉が常人離れしている。背には大剣を背負っていた。
「誰……ですか?」
「名乗るほどの者じゃないがな……《斬鬼》と呼ばれていたこともある。お前の面倒を見ることになった、師匠その一ってわけだ」
「し、師匠?」
呆けたカイに、さらにもう二人の人物が現れた。一人は紫紺のローブを纏った妖艶な女性、そしてもう一人は――黒く巨大な龍だった。ドラゴン。それも人語を解す。
「私は《賢聖》。魔法の師よ。といっても今は隠居して静かに暮らしていたんだけどね、面白い子が落ちてきたから拾ってあげたの」
「我は《黒炎竜王》。この山の主だ。貴様のような無力な人間を拾うなど本来あり得んが……我の勘が告げた。育てる価値があるとな」
「え、え、ちょっと待ってください! どうして僕が……?」
「言ったろう。面倒を見るって。今日から、お前には“地獄”を見てもらう」
斬鬼は、にやりと笑いながら大剣を床に突き刺す。
「お前、才能がないって言われて追放されたんだろ?」
「……はい」
「なら見せてやろう。才能なんて関係ねえってことをな。──その体と心が壊れねえ限り、俺たち三人が叩き直してやる」
「まずは、朝までにこの山を3周してきなさい。装備? ないわよ。靴だけ貸してあげるわ」
「ふん。我の加護を授けよう。ただし逃げ出せば、骨まで焼き尽くすがな」
「えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
絶叫するカイをよそに、斬鬼、賢聖、黒炎竜王の3人は――
楽しそうに笑っていた。
こうして、少年カイの“修行”が始まる。
それは、後に“英雄誕生の序章”と語られる日々だった。
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