第5話

「第5話 食材の祈り、火加減の罠」


◇あらすじ◇

ナムナム茸、それは“焼きこそ正義”を教えてくれた発酵キノコ。だがリーナは思った——「あれ、もっと完璧に焼けたんじゃ?」。

調理場に籠り、火加減を変えてナムナム茸と再戦!

強火で焦げて大爆笑、中火で泣き出し、弱火でまた幻覚——。

火加減ひとつで感情が変わる魔性のキノコに、リーナが学んだのは、料理とは魔法、そして食材の“祈り”だった。

「……食べるって、感情と向き合うことかも」

爆食剣士がひとつ大人になる、味覚と調理のマジカル回!


◇登場人物◇

●リーナ・エルヴァ(17) 爆食剣士。ナムナム茸を使って“焼き”修行中。火加減で情緒が崩壊する。

●チャム スライム妖精。リーナの調理実験を見守るが、毎回巻き込まれていく定め。

●ナムナム茸 発酵幻覚キノコ型モンスター。火加減で味と副作用が変化。今回も主役級。


◇第1項◇【焼きの研究者、胃袋系】

ギルドの簡易調理室にて——

「チャム、またナムナム茸買ってきた! しかも三段階に分けて焼いてみる計画!」

『お前ほんまにあれ中毒になってへんか?』

リーナは鉄板、フライパン、網焼きの三つを同時に準備していた。

「前回、焼いて正気に戻れたじゃん? だからもっと完璧な火加減を探したい!」

チャムは引き出しから鎮静用ミントスプレーを用意しながらつぶやく。

『これ、たぶんまた地獄やぞ……前回あんだけ幻覚見たのに、まだ足りんのか』

「だってあの“くさうま感”が忘れられない! 香りが記憶を殴ってきたんだよ!」

『殴られて快感になるタイプ、完全に爆食ジャンキーやな……』

「今回は“焼きの科学”として真面目に研究する!」

チャムはミントスプレーを握りしめたまま、そっと調理室の非常出口を確認していた。

リーナはさらに、「感情と味のデータ収集のため」と言ってナムナム茸6本を並べた。

『え、6本!? 3段階どころか6段階焼きとか言い出すんちゃうやろな……』

「え? やるけど?」

『胃袋で科学すな!』

リーナはエプロンを巻き、謎のポーズを決めた。

「今日から私は“焼き術士リーナ・エルヴァ”……調理場の錬金術師!!」

チャムは肩を落としながらぼそっと呟いた。

『ほなワイ、巻き込まれ被害者役で……』


◇第2項◇【強火→焦げ→爆笑地獄】

ジュウウッ!!

「いっけー強火チャレンジ!」

ナムナム茸が一気に黒焦げ、香りはスモーキーを通り越して炭。

一口かじったリーナの顔が、ぐいっと歪む。

「にがっ……でも……なんか、口の中で……漫才してる!?」

笑いが止まらない。チャムが慌ててスライムを冷却化しようとするも、リーナはごろごろ転げながら爆笑。

「焼けすぎ茸って……ツボすぎる!」

『味が“笑い”って、なんやねん……! これ食品か!?』

リーナの口からは「ホホホ……あはははっひひっ!」という三段変化の笑いが漏れ続け、床で腹を抱えて悶絶していた。

チャムはメモ帳を開くと、ひとこと書き込んだ。

『強火=ギャグ味。副作用:腹筋崩壊』

その後もリーナは、焼きすぎのキノコを“笑いの調味料”と称しながら無限に焼こうとするので、チャムは物理的にフライパンを没収した。

「この香り、完全にバラエティ番組レベル! 笑いと炭が混ざってる!」

『厨房が火事になる前にストップや!!』


◇第3項◇【中火→とろける→涙】

次は中火。

ジュワ……と溶けるように焼き上がった茸は、香りが深く、まるでチーズ系の発酵食品。

一口目——

「……うまっ……って、うっ……なんか……泣きそう……」

リーナの目に、あふれる涙。

「父さんの匂い……朝のキッチン……鍋の音……」

チャムがそっとメモする。

『中火=情動誘発。泣ける味。副作用レベルB。』

「こんな……味で泣くとか……あたし、どした……」

チャムがスライムティッシュ化して差し出すと、リーナはずびずびと豪快に鼻をかんだ。

「うっま……うっうっ……うまあああ……!」

『感情ぐっちゃぐちゃやな……』

リーナはそのまましゃがみ込み、スライムティッシュを小脇に抱えて言った。

「この味……実家……あったかい……」

『お前もう実家レベルで泣き飯ハマっとるやん……』

チャムは黙って一枚の紙を取り出し、こう書いた——「爆食剣士、感情的になる」。


◇第4項◇【弱火→しみしみ→幻覚ふたたび】

最後は弱火。じわじわと火が入り、リーナの表情がふにゃふにゃに。

「うーん……落ち着く……でも……チャム……増えた……また幻覚きたぁああ!」

チャムの幻影が3体。ひとりは帽子をかぶって踊っていた。

『またかい! 弱火は幻覚残るんやな!』

リーナがテーブルに突っ伏しながら、ふにゃっと笑う。

「……調理って、難しいね……」

チャムが静かに言った。

『せやけど、お前今、ちゃんと“調理”してる。いつもの暴食と違う』

「料理って……奥深いな……てか、チャム帽似合ってる……」

『それ幻覚や!』

リーナの幻視はさらに加速し、チャムの幻影が合唱を始める始末。

「チャムたちのハーモニー……尊い……」

『尊くない! ワイの音感が崩壊するぅ!!』

チャムは慌てて小型換気魔法を発動して霧を飛ばすと、リーナはようやく正気に戻った。

「うん……やっぱ弱火、危険」


◇第5項◇【火加減ひとつで心が動く】

調理場の煙がすうっと晴れていく。

リーナはテーブルに肘をついて、つぶやいた。

「……食べ方ひとつで、こんなに感情が動くんだね」

チャムは静かに頷く。

『せや。火加減、味付け、タイミング。それ全部が魔法や。調理こそ魔法やで』

リーナは満足げに笑った。

「焼きってすごいね……明日は煮込みで泣こうかな」

『泣く前提やめろや』

リーナはナムナム茸をそっと包みにしまい、こう言った。

「このキノコ……きっと、誰かの“祈り”なんだと思う」

チャムは首をかしげた。

『その“祈り”を強火で爆笑に変えとったの、お前やぞ』

リーナは照れ笑いしながらうなずいた。

「でも、祈りっていろんな形があるんだよ、きっと!」

チャムがぼそっと付け加える。

『……まあ、お前の胃袋が生きとる限り、世界は笑えるわ』

爆食剣士、今日もひとつ進化した——感情と火加減を手に入れて。

その足取りは、次の“味”へ向かって軽やかだった。


◇次回予告◇

『泣ける味に出会った日』——ウルウルバイン果実で、記憶と味覚がつながる。シリーズ初の“泣ける飯”回!


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