第4話 食うな、それだけは
◇あらすじ◇
湿った森の奥、香ばしい匂いに釣られてリーナがかじったのは、禁断の幻覚キノコ“ナムナム茸”。
食べるなと言われて素直にやめられるリーナではなく——そして副作用はすぐに発動。
チャムが四体に見える、空がシチュー色になる、自分を鍋に突っ込もうとする大暴走が始まる!
正気を取り戻す鍵は、一本のフライパンと、焼きの香ばしさ。
そしてリーナは、混乱の中でひとつの教訓にたどり着く。
「焼きって……救いやん……!!」
食とは何か。調理とは何か。焼き加減ひとつで人生を取り戻す、爆食と泥仕合の“幻覚キノコバトル”が今、焼き上がる!
◇登場人物◇
●リーナ・エルヴァ(17) 爆食剣士。忠告無視して生キノコをむさぼるも、焼いた香りで帰還する胃袋生命体。
●チャム スライム妖精。今回も被害者。調理法と物理で正気を取り戻す“最終兵器フライパン”の持ち主。
●ナムナム茸 発酵幻覚キノコ型モンスター。生だと地獄、焼けば神。音と匂いと幻覚の三拍子。味は最強。
◇第1項◇【食うなと止めても食うバカ】
霧の深い森の奥、リーナは目を細めていた。
「……なんか、うまそうな匂いしない?」
チャムが顔をしかめる。
『せやから言うたやろ、ここは“ナムナム茸”の群生地や。焼く前に食ったら終わりやて!』
リーナはその忠告を、9割スルーで聞き流していた。
「このキノコ、ほら……傘の裏がナムナムしてる。めっちゃ名前に忠実……ていうか、今にも喋りだしそうな顔してない?」
『キノコに顔を見出すな!!』
だが時すでに遅し。
「いっただきまーす!」
バリッ。
「うわっ……発酵くっさ!……でも、なんかクセになる!?"
リーナの視界が揺れ始めた。
「チャム、二人おる……あれ、四人おる!? チャムが増殖しとるううう!!」
『増えとるんちゃう、幻覚や! アホぉぉお!!』
霧の中でリーナが「チャム・クアドラ(四人目)」と握手していた。
「うふふ……爆食道の新門下生……チャム家四天王のひとり……」
『何勝手に宗派作っとんねん!?』
リーナの足元にはナムナム茸の胞子がもやもやと舞い、辺りはすでに“食べてはいけない系香り空間”と化していた。
◇第2項◇【幻覚キノコの副作用はギャグ地獄】
リーナは突然立ち上がり、鍋を片手にチャムを追いかけ始めた。
「ふふふ……今日は焼きチャム丼♪ スライム特盛でお願いしまぁす♪」
『待てぇ! お前完全にイッとるやないか! その目ぇ、もう戻っとらん!』
森の中を、鍋を構えたリーナと、フルダッシュで逃げるスライム。
キノコの香りが濃くなるほど、リーナの幻覚は加速していく。
「チャムが踊ってる……チャムが炊飯器になってる……あっ、チャムがおにぎり握ってる……」
『そんな多機能ちゃうわッ!』
「今日の献立、チャムのフルコース♡」
「メインは焼きチャム、スープはチャムのだし、デザートは……チャムゼリー?」
チャムが絶叫する。
『いやや! どの工程でも主食にも副菜にもなりたないわ!』
最終的にリーナはその場にぺたんと座り込み、ぐるぐる目を回してこうつぶやいた。
「空が……シチュー色……うふふ、雨はビーフストロガノフ……」
視線は完全に焦点が合っておらず、チャムが横切った瞬間にも「チャム星人の襲来……」とつぶやいた。
チャムが息を整えながら、一本の答えを出す。
『……よし、焼く。もうこれしかない』
◇第3項◇【焼きこそ正義、香ばしさは正気】
チャムは息を切らしながら、リーナの異常行動を凝視していた。
「ふふふ……今日は焼きチャム丼♪」
『やめろ!料理の順番からして間違ってるやろ!』
リーナは鍋を構えてチャムを追い回し、完全に“調理者”の目をしていた。
《どうしてこうなる……でも……食べたい……それが私……》
「チャムが踊ってる……チャムがおにぎりになってる……チャムゼリー……」
『全工程にワシ出すな!もう妖精ちゃうやんけ!』
ナムナム茸の香りがさらに濃くなり、空気ごと“発酵幻想空間”へと変貌していく。
足元には胞子が踊り、空にはスープ色の雲が立ちこめていた。
「チャムフルコース……いただきまーす♪」
幻覚の中でリーナはスプーンを手にし、チャムを鍋に投げ込もうと構える。
『このままやと本気で鍋になる!』
チャムは滑るようにリーナの足元をすり抜けながら、即座に判断する。
『最終手段や……!』
その手に握られたのは、唯一の救済——火。
「よし、焼く!!」
それは単なる調理ではない。正気を焼き戻す、“香ばしき目覚め”の儀式だった。
◇第4項◇【焼けば救える。たとえお前でも】
チャムは携帯コンロを取り出すと、ナムナム茸の傘部分だけを丁寧に火にかけた。
パチ……パチ……芳ばしい音が広がり、香りが変化する。
それは発酵の底から立ち上る、旨味の爆風。
焼き目の下に隠されたトロトロの芯が、じゅわっと音を立てる。
『火ってのはな、味を通して正気を取り戻す魔法や。これが、料理の力や』
「……あれ? この香り……お腹すいた……」
リーナの足がふらつきながら近づき、コンロの上をのぞき込む。
「んっ……うまっ!? なにこれ……居酒屋の神様が今、ここに……!」
チャムは小さくうなずいた。
『戻ってきたな、爆食バカ』
《焼いたら、こんなにも変わるなんて……火って、ほんまにすごい……》
リーナの瞳が正常に戻り、静かに息を吐く。
「チャム……これが料理……なの?」
『せや。火を通すってことは、命を食える形にするってことや』
その言葉に、リーナはそっとナムナム茸を見つめた。
◇第5項◇【“焼き”という最強の調理法】
森に風が通り、火の熱気が静かに冷めていく。
リーナは座り込んで、焼きあがったナムナム茸を両手で持ち上げた。
「焼くって、理性の味だね……」
チャムが肩をすくめる。
『せやな。でもお前にはまだ早いわ』
「でもさ、チャム。たぶん焼きで世界って変わる気がするんだ」
『その理論、次元が飛びすぎとるぞ』
リーナのポーチには、小さなフライパンと焼きかけのナムナム茸。
そのどちらも、今の彼女には“大切な道具”だった。
「今度はさ、焼きの火加減とかも試してみたいな」
『待て。それは地獄の入口や……』
リーナは無邪気に笑う。
「でも、焼き方ひとつで人生変わるなら——やる価値あるよね?」
チャムは呆れたように空を仰ぎ、口元だけで微笑んだ。
「……やれやれ、次は実験編か」
その一歩が、ナムナム茸との“再戦”を意味していることを、まだリーナは知らなかった。
◇次回予告◇
『食材の祈り、火加減の罠』——強火で爆笑、中火で涙、弱火でまた幻覚!?
リーナは“火加減”の魔法と、食材の感情に気づく!
祈りと笑いが入り混じる、爆食修行の“焼き地獄リターンズ”開幕!
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