6.かわいい龍ってなんだよ
「え、
「たぶんその龍。寝ているところはかわいいのよ」
寝ているところはかわいい龍ってなんだ?
メミが
入り口からの光がちょっとあるとはいえ、ゴツゴツボコボコした足元は、明かりがないと危なそうだ。メミのランタンを見やり、俺とラウラはアイコンタクトで会話を始めた。
『ランタンといい、龍といい、これどういうこと?』
『俺らの方がおかしいのかもな。ちょっときいてみる?』
『そうしよっか』
よし。
「メミ、そのランタンってどうやって出したんだ? 手品?」
「えっ?」
振り返ったメミの顔はきょとんとしていたけれど、あっと口を押さえた。
「ごめん、何も言ってなかったよね。わたしはね、神の子どもなの」
いけない、慣れない状況のせいで耳がバカになってる。
「ごめんなんだって」
「神の、子ども。立派な神になるためにがんばっている最中なの」
「神の子どもっ?」
「そう」
それっきり、言葉が出てこなかった。あんぐりと口を開ける俺の隣で、ラウラがはくはくと口を動かしている。
「……ランタン出したのは?」
「神が使える
「うん。スゴカッタ」
「わたしがこの洞窟に来たのも立派な神になるためなの。世界各地四か所にある、神の力がつまった真珠を取ってくるっていうテストでね、ストラキュム洞窟がそのひとつなのよ」
「世界各地だって⁉︎」
おだやかに、というよりぽかんとしながらうなずいているラウラの肩を押しのける
「大冒険じゃん! いいなぁ、俺もやりたい」
「カイとラウラは何をしていたの?」
「
「助ける冒険! そっちもすてきね」
そのとき、一気に視界が明るくなった。
「わっ……」
メミがパッとランタンを消す。
人工的なあかりなんていらなかった。だって。
「すごい……」
目の前に星が飛んできた。いや。
「ホタル……」
それだけじゃない。光るちょうちょも飛んでいる。
「ここは光るものたちが集まる洞窟。まぶしいくらいでしょ?」
「これ、龍も光る感じ?」
俺の問いに、メミはうーんと腕を組んで首をかしげた。
「どうだったかなぁ、必死すぎて覚えてない」
「必死?」
ラウラが小首をかしげる。その顔がちょっとこわばった。
「うん。ネックレスを落としたって言ったでしょ? 正確には、体に触れられて怒った龍に『食いちぎられた』のよね」
「……え?」
また耳がバカになったのかと思った。
「二人も気をつけてね。あの龍、少し触れただけで怒り
「お前、そんな状況でよく無事だったな」
「えへへ、昔から運はいいんだ」
「……ねぇ」
ラウラが
「……あいつか!」
いつの間にか、洞窟の
「食いちぎられたんなら、ネックレスはあいつのお腹の中なんじゃ」
「わたしもそれが不安で……」
「あっ、見て!」
ラウラがすっと白い人差し指を伸ばした。
「え、なに?」
「龍の鼻先っ!」
目をこらす。キラリと龍の顔の前が光った気がして、はっと目を見開いた。
「あったー!!」
「うるさいよっ」
「メミ、あるぞ! 食べられてなかった!」
普段暴力なんか振るわないラウラの、割と強めな平手パンチも気にせず、俺は飛び上がった。
龍の目と鼻の先の地面にネックレスが落ちていたんだ!
メミがほっと息を吐いた。
「よかった……」
「でもあの
ラウラの不安そうな顔を俺は笑い飛ばした。
「龍に触れなきゃ起きないんだろ?」
「そうとも限らな––––」
「俺取りに行ってくるー!」
腕を大きく振って歩こうとした矢先、ラウラに首根っこをつかまれた。
「ぐえっ」
潰れたカエルみたいな声を出したというのに、ラウラはちっとも笑わない。ただ深刻な声と顔で俺に迫った。
「……死んだらダメだからね」
「そんな
手を離してもらい、改めて龍の方へ向かう。
ネックレスは文字通り龍の目と鼻の先だ。
そーっと近づき、龍の顔の真っ正面でしゃがみ込む。
「……鼻息すげぇ」
視界の端で「何してるのっ」「早く早くっ」というラウラとメミのジェスチャーが激しく動くので、龍の寝顔観察はすぐやめる。
そーっと手を伸ばして、人差し指と親指でネックレスをつまみ上げた。
へへん、と笑ってラウラ達にかかげて見せる。
「やったー!」
「早く戻ってきて!」
「おうよ!」
こんなのヨユーだぜ!
と、思ったのがダメだった。
ハイテンションで勢いよく立ち上がったせいで、ひじが龍の鼻にクリーンヒットしたのだ。
「あ」
バチッ。ギロリ。
そんな音が聞こえても俺は不思議に思わない。
それほどの勢いで龍の目は開かれ、ばっちり俺をとらえた。
すでに燃え上がっている赤い瞳と目が合った瞬間、俺は飛び上がった。
「ぞぎゃぁっ‼︎ 逃げろおおぉぉ!」
龍の頭突きを転がって
「ほら逃げるぞ!」
「こっちよ!」
先に逃げていたメミが手を振る。
いやヨユーか! ラウラほっぽるなよ!
ラウラの手を握り、走り出す。
「グルゴオオォォォォ……!」
龍のうなり声が、体の芯どころか洞窟を揺らした。
背筋が凍りそうになるのを振り切って、俺はラウラの冷たい手を強く握った。
「ラウラ、死んだらダメだからねって
「……へ?」
もうラウラはかすれた声しか出せていない。俺は声を張り上げた。
「さすがに俺も、ここで死にたくないんだよね‼︎」
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