スキー研修#7 「夢の終わり」

スマブラで騒がしかった大部屋はしんと静まり返っている。 


分厚い布団の中でみんなは眠る。


和は目を開けて天井を見ていた。


体は布団の中の暖かさを、顔は部屋の冷凍庫の様な空気を感じていた。



もう転校するし、言っても良かったかな。


いやでも、周りにどんな目で見られるかわからないし。


今回もうまくやった。よくやった。



和は考え事をしてすぐ眠れない。



賢は今頃永仁に甘えてるのかな。



和は冷たい空気を一気に吸い、賢のことを考えて眠りについた。






1月17日 朝7時


皆んなが目を擦りながら起き上がった。


夜中までスマブラで騒ぎ立てていた様子とは反対に、朝は静かでどこかしんみりしていた。


積もりたての雪に朝日が反射して宿の中がオレンジ色だった。


「和ー朝飯食うで」


宿から外の様子を眺めていた和は、オレンジの光に包まれながら温かい朝食を食べに食堂に向かった。




その後、朝食を食べ終えスキー研修は2日目に入った。


「ぐおおおー!?」


松平が顔から転んでいる。


永仁と和は松平を加えて3人でリフトに乗って上に上がった。


「松平くんはなんというか、元気だね」


永仁が松平を見て苦笑いをしている。


「京都の人の嫌味みたいで嫌やわー」


松平と永仁の相性は微妙そうだった。


さっきまで出ていた太陽が雲に隠れ、スキー場には雪がちらついている。


「賢は昨日の夜どうだった」


和が永仁に聞いた。


「疲れてたのかいつもにまして甘々だったかも」


和はスキーの板に足をはめながら


「もう一回くらい見てみたいな」


と言った。


「和、部活辞めたんだっけ。今度写真見せるよ」


永仁も滑る準備をしながら話す。


「あっそういえば昨日賢が女子に告られちゃってさ」


和の手が止まった。


「えー!?そうなん?ほんまなん?」


松平が永仁にくらいつく。


松平が永仁に詰め寄ってる間、和は頭の中が真っ白になっていた。


他の人が滑って雪を削る音も、少しづつ強まっていく風の音も和には聞こえない。


和の頭の中の真っ白な空間にぐちゃぐちゃになった文字が溢れてきた。



そっか。そりゃそうか。



和から賢との思い出が溢れ出てくる。



「えー付き合わなかったのー勿体無ー」


「ちょ静かに。賢も滑ってるんだから」


永仁はあたりを見ながら小さな声で話していた。


「え和どうしたの」


松平に押されていた永仁が和の方に目線をやった。



夢を見てたんだ。


きっと僕を見てる人がいて、可哀想だから夢を見させたんだ。


叶うなんて思ってなかったけど


けど、大事にしていた花が潰されたみたいで、


でも僕はこれから一人で━━



和には永仁の声も聞こえていない。


松平はまじまじと和の様子を見る。


「和って賢のこと好きなの━━━」



松平のその言葉だけが、和の頭の中に入ってきた。


永仁はその言葉にどこか辻褄が合う気がしてハッとした。


「え、っと、賢は一応断っ━━━━━」




「無理だ」


和はストックも持たずに斜面を急降下し始めた。







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