スキー研修#6 「純粋なお風呂」

「あぁちょ強すぎやんー」


和のクラスの人々はスマブラに夢中になっていた。


「ちょっとトイレ行ってくるわー」


松平はそう言って大部屋を後にした。



はぁ。


和はロビーに一人で座っていた。


先生とは学校を辞める話をしていた。


気疲れするからあまり引っ越すことは考えたくない。


そろっと風呂空いてるかな


そう思い和はロビーのソファから立ち上がった。


「おおー和。なんだったん?」


目の前には松平がいた。


「松平こそどうしたの」


「ちょっとトイレや。で、なんだったん?」


松平は和が気になる様子だった。


「先生に仕事頼まれた」


松平は和のあっけない様子に一度、和から目線を外したが、また目線を戻す。


「嘘やん」


和はその言葉を聞いて少し動揺した。


自身の嘘は大抵バレたことがなかったからだ。


「嘘って、なんで」


「なんか和っていつも嘘つきみたいな顔してるやん」


理由が核心的じゃなかったから和は嘘を突き通す。


「ひどーい。僕は正直ものなのに」


松平は真面目な顔だった。


「なぁなんでいつも泊まる時風呂入る時間ずらすん?」


「あと、差別とかの授業の時いつもおらんやん。どこ行っとるん?」


和はこのことが聞かれるのは想定していた。


「皮膚アレルギーだから皆んなとは━━━━━」


「嘘やろ。俺もまだ入っとらんかったんよ。一緒に風呂行くぞ。」


松平は強引に和の手を引き風呂場に向かった。




カコンッ


桶の音が響く。


「なーごめんて。嘘つきの顔とか俺も知らんしー」


「いやまあ別にいいけど」


和は自分の頭を洗っている。


横目に松平がこっちに体を向けているのがわかる。


「なんで頑なにこっちみいひんのー?」


和は無視して体を洗い始める。


「和ゲイなんかよー?」


カコンッ


すぐに返答がないのを松平は疑問に思った。


もしかして。と松平は和の閉じている口を見る。


まだ開かない。湯気で口元が隠れそうになった。


その瞬間口が開いた。




「なわけない。そうだとしても松平のブツに興奮なんかするかよ」




湯気ではっきりは見えないが、和がいつもより険しい顔をしている様に松平は見えた。


「そらそうよなー」



"もし和がそうだったら、友達やめるわ"



その言葉が湯気でいっぱいになった風呂場に何度も響いた。


二人は湯船に入る。


「皮膚のアレルギー嘘やんー。嘘つきなさんなよー」


和はただ真っ直ぐ前を見続ける。


「━━━俺、男が男好きなのとか理解できへんわ」


松平は手で水鉄砲を作って和に向けて発射した。


「最近はこういうこと言うと怒られるけど、良いやん理解できひんくても。━━━うぎゃ」


和も手で水鉄砲を作り、松平の顔に発射した。


「松平がそれで良いならなんでもいいんじゃない」


「理解はできなくとも、侮辱するのは良くないってわかっとるけど、うーん」


松平は難しそうな話で頭がこんがらがる。


「なんというか、ピーマン好きな人が気持ち悪って言われてもそいつは食べ続けるやん」


「うん」


「別に男が好きな人も気にしなけりゃいいやん」


松平は純粋な顔だった。


「なんで認めさせて、理解してもらおうとするんやろ」


和は松平の方を向いた。


「やっとこっち向いたー。裸の付き合いやもんなー」


「━━━━普通の人と比べちゃうからだよ。ピーマンを好きな人は嫌いな人と比べて悲しくなることはないでしょ」


「うーん。もっと簡単に」


和は立ち上がって湯船から出る。


「辛いからじゃない」


そう言って和は更衣室へ出て行った。


なんか説得力があるなと松平は感じた。


そして松平も出て行った。




更衣室に白い湯気が侵入してくる。


「はぁーあったまったわー。って早」


和はもう下着を来ていた。


和は松平の目を見てさっきの話に付け足した。


「さっきの松平の言葉は色んな人に言っちゃだめな言葉だからね」


「なんでー?」


「ちょっとくらい自分で考えて」


和は洗面台に向かった。

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