念い出#5 「東野の罪」

僕は部屋から出た。


お母さんとは当分会えない。


その事実を知った僕は帰る場所が無くなったような感じがした。


目の前にある長く続く廊下に目をやった。


ポツポツと雨音が響いていた。


そしてペタペタと足音がした。


十六歳くらいの少年が歩いてきていた。


僕よりもすごく大人びているように見えた。


僕はすれ違い様にその人をちらりと見た。


少年の目には光がなかった。


そして手が震えていた。


その人は無言でカウンセリングの部屋へ入って行った。


パタン


僕は振り返ったまま、閉まった扉を見つめた。


僕は少年のあの様子と、さっきのカウンセラーのどこか掴めない不思議な感じに違和感を感じていた。


僕は扉の方へ戻った。


カウンセラーにもう一度お母さんについて聞きに行こう。


そう思い足を進めて扉を開けた。





少年が服を脱いでいた。


カウンセラーの人はそれをソファーに座りながら脚を組んで眺めていた。


僕は身体が固まった。


目の前にはもうすでに体の大きなカウンセラーが扉を抑えて立っていた。


「まだ話し足りなかったかな」


少年は無表情のままベルトに手をかけていた。


「せっかくだから見ていきなよ」


僕は声を出せなかった。


「じゃああそこ座って」


カウンセラーは指を指しながら言った。


「君がもらえなかった愛を見せてあげる」


外から雨足が強まってきている音がした。


カウンセラーは僕に微笑みかけていた。


━━━愛...。


そう思い、指された方に僕は足を一歩進めようとした。


すると後ろの扉から僕は腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。


バン!


扉が叩き閉められ、僕はカフェテリアの方に引っ張られる。


杏だった。


僕と杏はカフェテリアの奥まで走った。


廊下の窓からの日の光や雨の音がぐちゃぐちゃになった。


二人の息の音が隣のプレイルームの賑やかな声と混ざる。


「カウンセリングは受けないほうがいい」

「でも愛を見せてくれるって」

「そんなこと言われたの」


杏は強く拳を握っていた。


「あれは愛じゃない。少なくとも和にとって」


僕はハッとなった。


杏はため息を吐いてその場にしゃがみ込んだ。


「さっきは言い過ぎてごめん」

「僕もごめん」


二人はお互いに謝った。



二人の間に少し微妙な時間が空いた。


杏が口を開いた。


「私もあざだらけなの」


杏はそう言ってショートパンツを少し持ち上げた。

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