もう片方の靴下は(短編集)

三澤いづみ

おまゆう




「この我のものとなれ、勇者よ!」

 断る。

 ならば我がお前のものとなろう、勇者よ、と魔王が言い出した。

「……え? いや、そんなことは言ってない! 言ってないぞ! ちょっと待て! おい!」などと照れた顔をして、頬を赤らめて、上目遣いで言い出したのだ。

「ちょ、ちょっと」と動揺を表に出しているのは好意を素直に口に出せないからだ。魔王は勇者に惚れてしまっていて、もう勇者無しでは生きていけないと心に決めているのだ。

「勝手なことを言うな! おい! というか、どうなってるんだこれは」と、魔王はうろたえた素振りを見せた。もちろん演技である。さすが魔王。押してから引く、男の気持ちを手のひらで弄ぶような上級テクニックだ。

「待て待て待て、我の言葉が凄まじい勢いで歪められているぞ……」などと、真剣な口調を意識している魔王の、憂いの表情は今まさに勇者の口づけを待っている牝の色気に満ちていた。

「……そ、そうか。この流れは我を動揺させようとしているのだな? そうなのだな?」などとわざとらしく胸を張って、まるで何も分かっていないかのようなフリをする。あざとい。さすが魔王あざとい。

「いや、だから」とため息を吐く魔王の涙目は、否応なく勇者の嗜虐心をそそるもので、先手を誘っているのだと勇者に確信させた。

「え」と、これまでの流れから十分予想出来たというのに、これでもまだ分かっていないフリをする魔王の惚けた表情は、その艶めかしい唇からこぼれる吐息は、色っぽく濡れた眼差しは、沸き上がった欲望を必死に抑えていた勇者の理性を決壊させるのに充分なものだったと言わざるを得ない。

「や、やめんかっ」と言いながら身体は喜んでいる魔王に、勇者はなけなしの抵抗をし、その誘惑に対してせめて主導権を握ろうと、魔王がまとっている恐ろしき装備を慣れない手つきで取り外していく。

「なんてことを……我のローブが……」その声にはわずかに怯えが混じっており、まるで生娘のような声を漏らしながら、勇者の手から逃れるために暴れ出す魔王。しかしそんなことで油断をする勇者ではなく、まるで人間と何一つ変わらないその全身をくまなく観察している。

「ああ、我を守る衣はすべて剥ぎ取られてしまった……」と、勇者の目から逃れるように、素早く手で自らの弱点を隠す魔王は、か細い声で、しかし火照りだしてしまった身体の疼きを


(この先は省略されました。続きを読みたい方はワッフルワッフルと書き込んでください)



【後書き】

 当小説におきましては、容姿、声、性別、シチュエーションについてはご自由にご想像いただけます。

 どうぞ、台詞から状況を推理する、あるいは妄想をたくましくしてお読みくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。


 なお、台詞に付属する地の文はすべてメタる力を手に入れた勇者による世界への高次元経由の干渉であり、本来あるべき事実とは異なる場合があります。

 ご了承ください。

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