1部3章 学校に泊りたい!
第29話 久々に話したい!
時刻は朝の7時。
ヒナミからメールが届く。
『今日の午前9時。洋服を持ってきて部室集合。』
文面では意外と淡泊なヒナミだった。
それが今日に限って口調が変わっているわけでもない。
僕はそれを見て、日常を取り戻すことができたと実感した。
◇
部室にはまだ誰もいなかった。
本棚から読み途中のライトノベルを手に取り、ソファに座る。
「えーっと、どこまで読んだかなぁ…
あそうだ、三人目のヒロインの告白が失敗して…」
一人暮らしをしたことがある人ならわかると思うが、寂しがり屋な僕は一人の時は独り言が多い。こうしてライトノベルを音読するのも、ライトノベラーのたしなみだろう。
「ねえ、うるさい。」
「うおっ!」
音なる方へ見ると、でっかい図鑑を持ったロリがいた。
八咫アイカだ。
「いたんだ…」
「おはよって言ったじゃん。」
少しだけクスっと笑うアイカ。
このまま惰談していても良かったが、僕はこの女に感謝と謝罪が必要だ。
「…ありがとな、昨日は」
「いいよ。デート一回で許してあげる。」
「デート?」
「うん。カゲはしたことないでしょ。」
「あるわ」
「全奢りならしてもいいよ。」
「まあ僕も、どうしてもっていうならしてもいいよ」
「そっちがしたいみたいだし、行ってもいいよ」
八咫アイカはあまり故意的に干渉してこないが、それが居心地よかったりする。
つい、自分から話してしますのだ。色々と。
「ていうか、まだその分厚い本持ってるのか」
「うん。ヒナミちゃんに持っておけって」
「なんて本なんだ?」
「世界の神話徹底解説part5」
「…」
花豊先輩や水宮スイはともかく、天文部にこの子を入れたのは正解だったのかもしれない。
◇
「…全員揃ったわね!!!」
ヒナミは言った。
この時に部室に居たのは、花豊先輩、僕、アイカ、ヒナミ。水宮スイや七瀬はいないようだった。それにしても、四人で集まるのは中々に久々である。懐かしさとかは一切感じない。
「ヒナちゃん!旅行はどうしたんですか?」
花豊先輩はここ最近の活動内容を知らないようだ。
「…まあ、ちょっと、諸事情よ」
ごまかし方ヘタか。
素直に僕が悪いと言えばいいのに。
「と、とにかく!もう転校生はあきらめたわ!」
ヒナミの脳内辞書に『諦める』という文字があるのが不思議で仕方がないのだが。実際の所、何となくではあるが、うしろめたさがある。
「アイカ、あの金髪嫌い。」
おい、髪の毛の色の話は触れるな。
意味わかんなくなるだろ。
僕はそれに呼応するかのように、追撃を行う。
「七瀬から奪えそうにもないしな」
「その通りよ!転校生が勝ちヒロイン。スイが負けヒロインってのは私たちに変えられることはできないのよ!」
「なるほど」
花豊先輩は高速でメモ帳にメモを残している。が、そこではなく、他の所に違和感があった。
「花豊先輩、どこかイメチェンしました?」
「え、ええわかっちゃいます?///」
その話題を待っていたかのように、テンションが変わる。
ヒナミとアイカはそれを最初から知っていたかのように、言った。
「逆に気づかなかったなんて、心底人の心が無いのね」
「アイカ気づいてたよ。メガネないこと。」
逆に気づいていたのに触れなかったのか。
花豊先輩はメガネを外し、コンタクトに変えていた。
「え、どうしてコンタクトに…」
僕がそこで話を広げようとしたところでヒナミが怒鳴る。
「閑話休題よ!話を螺旋させないで!確かにハナちゃんが変わろうとしてるのはいいことよ?でも私の方が大事でしょ!?」
「そんなメンヘラみたいに」
「…で、今日は何するために集まったの。?」
アイカが軌道を修正すると、ヒナミは本日のミッションを発表した。
「お泊まりよ!学校でお泊まりしましょ!!!」
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