第4話 入部したい!

「ここが天文部…ね…」


 部室塔の最上階(4階)に上ると、三階までとは打って変わって一気に静かになる。

 どうやら最上階は天文部以外は入っていないらしい。


「…じゃあ、開けるわよ。」


 僕たち朱屋敷一行は唾をゆっくりと飲み込み、陽七海は恐る恐るドアノブを握る。


「(ガチャッ)」

「……」

「(ガチャガチャガチャガチャ!!)」

「ヒナミちゃん! 鍵かかってるから!」

「おい、何度やっても同じだぞ。」

「開きなさいよ!!!!!」


 今日は定休日だったようだ。



 ◇次の日◇



「私、今日バイトだから二人で行ってきて」


 こいつが明日行こうって言ったのに。

 つまり僕は、花豊さんと二人、か。


「え…じゃあ、私、カゲさんと二人…」


 おどおどしている。

 そういえば、俺のあだ名はカゲだったな。

 いつ聞いてもひどいあだ名だ。


「そ、そういえば、私も用事思い出しました。」

「あそう、じゃ、カゲだけで行ってきて。」

「気負付けてくださいね。」


僕は花豊先輩の首元をつかみ、無理やり連れていく。


 ◇



「ひィ…本当に来ちゃいましたね」

「ここは心霊スポットかなにかなのか」


僕は花豊先輩の前なので恐る恐るだが、ノックをする。


「(コンコンッ!)」

「はーい」


 ちいさい女の子が出迎えてくれた。

 黒タイツで黒いヘッドフォンを首にかけたボブ。

 ちっさめの地雷系?だろうか


「用件はなに? 差し押さえ?」

「にゅ、入部し来ました」

「にゅう…ぶ…?」


きょとんとしている。

入部と言う文字がわからないらしい。


「あ、ああ入部!え、入部?」


理解したかと思い嫌きやまたもや引っかかる。

そんなに入部希望者こなかったのか。


「入部です。」

「入部か!!入部!?うちに?」


その人は『まあここで話すのもなんだし、入って』なんてご近所さんみたいなことを言って入らせてくれた。





部室内はかなり広い空間だった。

馬鹿でかい本棚や高級そうなソファ、テレビなんかもあって充実したラインナップであった。

多分暮らせる。


「言っておくけど、天文部は天文部として一回も活動したことないよ?」

「まあ、かえって好都合と言うか…」

「あそう、じゃあいいだけどさ」


僕と花豊先輩は恐る恐るソファに腰を掛ける。

体が思ったよりも沈む。


「…君たちは何年生?」

「僕は一年です」

「私は二年生です」

「じゃあ女の子の方は私たちの噂聞いてるよね?」


天文部の先輩は『私たち』と言った。

一人なのに。


「確か体育祭がなくなった原因とかなんとか…」

「ま、概ね当たってるわ。」


この高校は体育祭がない。

いくら友達のいない僕でも、これくらいの噂なら耳にしたことがある。


「じゃ、知ってるならいいわ。いつ入部するの?」

「早ければ早いほどいいんですが」

「じゃ、私とマ〇カしましょ。勝ったら部室譲る。」


テレビゲームである。

レースゲームである。





結果は惨敗であった。

『私は三年間やってきた』と強者の咆哮を上げ、部室のキーをくれた。


「いいんですか?」

「もうそろそろ受験勉強しなきゃだしね。」

「あ、ありがとうございます」

「青春楽しんでね」


キュートな笑顔で僕たちを見つめるその目は、どこか寂しそうだった。


「それと、女の子の方」


花豊先輩になにか伝えたいことがあるらしい。


「置いてかれる気持ちも考えてね」


そう言い残し、三年の先輩は部室を出た。

部室はどう改造してもいいとも言っていた。


花豊先輩を先に帰らせて、僕は掃除をしてから帰った。



◇帰宅後◇



 家に帰ると、玄関にはローファーが二セット。

 誰かなんてとっくにわかっている。


「…なんで僕の家いるの?」


 花豊さんは台所でエプロンをしている。

 裸ではない。

 ヒナミに関しては僕のベッドで寝転びながら、ポテチを食っている。

 しかも制服で。


「いやさ、カゲって高校入ってカップ麺とコンビニ弁当しか食べてないでしょ?」

「だからなんだよ」

「だから私たちが作ってあげようかなって」


 私たちって、

 花豊先輩しかやってないじゃん。


「おまえ、寝そべってるだけじゃん」

「ひどいわねー

 私だって人参の皮むいたわよ。 ね?ハナちゃん」

「うん、ピーラーでね。」


 ピーラーかどうかは大事なところではないと思う。

 陽七海はともかく花豊さん料理ができそうだし、楽しみっちゃ楽しみだ。


「どれどれ…」

「あっダメですよつまみ食い! 先にお風呂入ってください!」


 なんだか花豊さんと順風満帆な新婚生活してるみたいでいいな。

 あの邪魔者ひなみさえいなければ完ぺきだったのに…


「ん?何か言ったかしら?」

「なんでもない」


 風呂から上がると、何やらいい匂いが部屋に充満していた。

 席にはもはや俺と主食以外がそろっている。

 準備万端この上ない。


「さあ、お食べなさい」


 ドンっ!と花豊さんが置いた寸胴には白い液体。

 どうやらシチューのようだ。

 ていうか、寸胴なんかうちにあったか。


「いいわね、シチュー」

「これシチューじゃありませんよ?」

「じゃあなんなのよ」


 こんな白くてドロドロとしていて、尚且つ食べ物となると。

 シチューの他に僕は知らない。


「隠し味を入れた豚汁です」


 皆のために隠し味と言うのをいったん説明しておこう。

 隠し味とは、料理の中に少量調味料を加え、食事全体の味を引き立たせたり、豊かにするもの。


 この豚汁には、まぎれもなく牛乳が入っていた。


仲間を集めたい編 進捗度

★★★☆☆☆☆☆☆☆☆

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