GFfA

あごだしからあげ

プロローグ「灰は降り積もる」

 ※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




かつて、世界は平和だった。

人は争いを止め、お互いを慈しみ。

全てを制御して、自分たちの発展に献身した。


それは美しい世界であり……

同時に、停滞した、腐り行く世界でもあった。


“人間は世界の自死機構”

そんなことを、誰かが言っていた。

いつか見た、重たい夢の中で。


今の世界を作った人も、信じていたんだろう。

全てを焼き尽くす、怨愛の修羅を。






















 官邸

「有史以来ですな」

 恰幅のいい、スーツ姿の高年の男が、外を眺めながらそう言う。

「ええ」

 その背後からすらっとした壮年の男が現れ、並ぶ。

「人間は、争うことしか出来ない……そう言われていたのも、半世紀前……既に人々は、心を一体にして未来へと歩んでいます」

「ああ、天災のコントロールも、資源の生産も完成した……」

「ようやく、人間は真の意味での平和を手に入れ――」

 二人が談笑していると、一瞬何かが通り過ぎたような衝撃を受ける。

「いま……?」

 窓の向こうに見えていた都市が中央から斬り裂かれ、赫々と燃え盛る炎がその軌道から一気に噴出させて焼き払いながら、二人の間を縫うように両断し、官邸がまるごと真っ二つになる。

「な……なんだ……!?」

 吹き飛ばされた二人が、懸命に立て直して外を見る。視線の先の中空には、片兎耳の少女が浮かんでいた。炎が宿った脇差を右手に握り、吸い込まれそうなほど暗く濁った金色の瞳を向けてくる。

「こ、こいつは……!」

「怨愛の修羅……!」

 少女が脇差を振りかぶり、薙いで前方の全てを消し飛ばす。

――……――……――

 それからは。

 秘するまでもなく、その少女によって全てが焼き尽くされた。

 築き上げた平和も、あらゆる生命が灰へと変わった。

 怨愛の修羅――ある意味で人類種の天敵と言えるそれが、歴史書の最後を刻みつけたのだった。



 








 残灰の砂漠

『何見てんだ、おい』

 砂漠に突き立てられた残骸の傍、辛うじて形を残したブラックボックスに残された映像データを見ていると、背後から通信音声がする。視界に映る情報から、僚機の重装甲の二足歩行兵器からする声だとわかる。

『これだから傭兵はクソって言ってんだよ。働け、クソアマが』

「すまない」

『てめえの識別名なんざ興味ねえが……セレス、だっけか?今の時代、ギルドに属さずにフリーで生身で戦う人間なんているんだな』

 セレスと呼ばれた女性はブラックボックスを手放しながら立ち上がり、振り向く。少し頬が痩けて、全体的に筋肉質な身体に、旧式のパワードスーツを纏い、更にその上に襤褸布を巻いた独特な衣装となっている。

 顔は砂と灰で汚れ、頬骨の辺りで層を作っている。

「組織に属するのは性に合わない、それだけだ」

 二足歩行兵器は人型の6mほどの大きさで、赤とガンメタリックで塗装されている。

『はんっ、一匹狼気取りか?ま、それで生き残ってるってことは、クソみたいなみみっちい仕事で食いつないできたんだろうな。まあどうでもいい。もうじき敵がこの辺りに来る。俺とてめえで、そいつらを急襲してぶっ倒す』

「わかった」

 残骸から砂漠の地平線を見ていると、ブーストで空中を突き進む二足歩行兵器を捕捉する。

『来たぜ!まず俺があいつを撃って止める!』

 僚機の二足歩行兵器がブーストで飛び上がり、残骸から飛び出して右手の重機関銃を敵機へ乱射する。セレスも飛び出し、動きを止めた敵機へ、魔法陣を踏み台にしながら接近していく。

 敵機は魔力で防壁を張って弾を弾きながら、背負っていたコンテナを切り離して落下させる。蒸気と共に金具が吹き飛び、コンテナから四人の人間が現れて展開する。

『女!人間の方はてめえが殺れよ!』

 僚機が左手にアサルトライフルを持ち、両腕同時に乱射する。魔力防壁に阻まれつつ、敵機が右手の無反動砲を発射してくる。

 セレスはその攻防を余所に、地上に展開した人間へ接近していく。近代的な装備に身を包んでいるが、勇者、戦士を中心に、僧侶と魔法使いで援護するシンプルな組み合わせのようだ。勇者が魔法を詠唱し、向けた剣の切っ先から電撃を放つ。こちらは左手でその電撃を受け止めて帯電させつつ、魔法使いが唱えた空間魔法からワープし、背後を取ってきた戦士に左拳を叩き込んで地面に叩き落とし、閉じかけのワープホールに右手を突っ込んで魔法使いを引きずり出し、空中で左拳で腹を抉って後頭部を右拳で叩き落とし、魔法陣を踏んで急降下していく。

『クソアマ、僧侶をぶち殺せ!そいつが敵機の魔力防壁を維持してやがる!』

 着地で高く砂を巻き上げ、砂煙の向こうから一気に駆け寄る。勇者が再び剣から電撃を放ち、こちらがスライディングで躱しながら突っ込むと、勇者は即座に体勢を変えて飛び上がり、剣を下に向けて降下してくる。剣を右手で掴んで引き寄せながら蹴りを腹に極め、起き上がりながら勇者を踏み台にして僧侶へ一瞬で肉薄し、首をへし折る。

『よくやった!』

 僚機が叫びながら弾切れになったアサルトライフルを捨て、それがちょうどダメージで悶えている戦士と魔法使いの上に向かって彼らを叩き潰し、僚機は左袖からバトンを取り出して起動し、レーザーブレードとして握り、敵機へ一気に詰め寄る。重機関銃で牽制しながら接近すると、敵機も左腕の発振器からブレードを展開し、両者のブレードが激突する。ゼロ距離で無反動砲を発射してその反動で少し離れつつ、僚機は僅かな首の動きで砲弾を躱す。

『こいつ自爆覚悟かよ!?』

 狼狽した瞬間に敵機のブレードが胴体のコックピット部を切断し、断末魔の間もなく蒸発する。その内に高度を合わせたこちらが背後を取り、高出力の雷の槍を形成して、敵機のラジエーター部分に突き立てる。強力な電撃が駆動系に伝わり、一瞬で敵機も爆散する。新たに生まれた残骸とともにセレスが着地し、彼女は通信を開く。

「目標を撃破。僚機は戦死した」

『こちらでも目標の排除を確認した。ご苦労だった、傭兵。報酬は既に振り込んである』

 通信が切れ、セレスは降り注いでくる灰の中を立ち去るのだった。

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