第24話   不思議な子供たち・ある女の子

【◯乱お騒がせ男】  

 九月八日――明け方

 めずらしいことだが、明け方にあちら側の世界にはいった。

 場所は――R界の地上世界であるらしい。


 ――どこかの建物の中にいる。

 ここは昔寝起きをし――遊んでばかりいた神官学校の寮に似ている。


 ――外はすでに明るくなっている――この世界でも朝を迎えているようだ。


 広い廊下を歩いていくと、両側に障子戸の和風の部屋が三つ並んでいた。

 ――かなり大きな部屋である。

 

 ――左側の部屋に入っていった――


 そこには霊が大勢いて――自習を申しつけられた生徒たちが、騒ぎはしゃいでいるような騒々しさだった。


 俺が入っていくと――一瞬、部屋全体がどよめいた。

 ――前にいる人も後ろにいる人も――みな顔まじかまで迫ってきて、真正面から俺の顔をまじまじと見つめた。


 「おおっ!本当かよ」

 「本物だ――!」


 と、一様に歓喜の表情をあらわにしているではないか。


 そんなに俺はこの世界では有名なのだろうか。

 ――それとも単に珍しいのか――何れにしても悪い気はしない。


 すると今度は――その部屋にいた霊全員が、部屋の中央に正座して集まり――案内役の霊がどういう風に説明したのか――俺をみなに紹介している。


 ――エーッ! これが……〈今R界を騒がしている◯乱お騒がせ男〉で……――

 と言ったかどうかはわからない。


 しかし俺には――霊たちの集まりかたのほうが面白かった。

 それまで――バラバラに思い思いのことをしていた霊たちが――いっせいにパッとビデオを逆再生したように、一瞬のうちに整列したのだ。


 俺はその滑稽なさまを半分笑い――半分呆れながら、あ然として見ていた。


 ここの霊たちはみな若かった。

 年齢がバラバラであり、子供が多いことから――まるで施設の子供たちのようにも見えた。


 霊界の人たちはだいたいにおいて――苦労知らずの良家のご子息のような――まるで悩みごとのない穏やかな顔をした人が多い。

 

 俺は直感的に――ここにいる人たちは親族に関係する霊だなと思った。

 つまり、俺もふくめてみな身内なのだ。

 そして、次元のちがった世界に生きている――といった違和感はまったくなかった。

 R界は人間世界とちがって、一族あるいは先祖代々の大家族で暮らしているから、よくこういった光景を目にするのである。


 そろそろ次に行こうと――俺は廊下に出た。


 反対側の部屋はどうなっているのかと戸を開けて見ると――一人の小さな女の子がふかふかした布団に寝ている。


 ――白衣を着たおかっぱ頭の童女であった――


 けっこう位の高そうな気もする。

 小学校二三年くらいの歳だが――神は童形で現れると言うから、えらい神さまなのかも知れない。

 

 人間世界の年功序列とはまったく逆で――高位なほど若く見える。

 時には赤ちゃんだって高位な霊のときもある。

 見かけはそうだが――中身は高位である。


 女の子は俺がわかるのか、にこやかに笑っている。

 俺は何度も挨拶した。


 「どうも――こんにちわ」 

 霊界の人と交際うためには、礼儀正しくしなければならない。

 粗暴な振る舞いもしないことに決めている。


 しばらく見ていると、今度は今までの少女が消えて――同じ枕のところに別の女の人が出現した。

 一瞬だったのでよくわからなかったが、青白い顔をしたその寝姿は、先ごろ亡くなった――これも親族の女の人によく似ていた。


 ――この前の農家の座敷での現れかたと一緒だ。

 何人も――何人も一ヶ所に現れては消え――また現れては消える。

 こうやって遠く離れたところから――霊たちを呼び出しているのだろうか。

 まるでSF映画のテレポーテーションを見ているようだった。



 ――俺は先を急ぐことにした。


 廊下にでると――さっきまでいた部屋の襖〈ふすま〉が開いていて――先ほどの連中が何やら山のように集まっている。

 ――ある一つのものを熱心に覗きこんでいる。


 ――急いでいたのでそこには立ち寄らなかったが――ひょっとしたら人間界の様子でも見ていたのかも知れない。

 ――この世界には人間界のようすを、つぶさに観察するための器具か、あるいはその方法があるはずなのだ。

 

 ――いずれにしても調べておくべきだった、と後悔している。

 あとで――俺の研究品目として、一番見たいものだった。


 しかし、せっかく来訪したというのに――変わり身の早い連中である。

 来た時は物凄く興味津々だったのに――まったく変な奴らだ。


 ――となりのもう一つの部屋の入り口には――スリッパがたくさん脱いであった。


 これは“入って来い”という彼らのメッセージなのか――いやいや、ただ単に集まっていただけだろう。


 しかし――部屋の大きさにくらべて、スリッパが多すぎるような気もする。

 入ろうと思ったが――気が変わってやっぱりやめることにした。

 ――入って行ったら、また何か面白いものが見えたかも知れない。

 ――時間に限りがあるので仕方ないことだ。


 ――ここからは義理の姉さんである細雪(関係の霊であろう)が案内に立った。

 

 あとについて二階に上って行く。

 ――義姉さんはどことなく緊張した面持ちだ。――本人に似ているがなんとなく違う。


 ――階段をのぼりながら、途中途中で――今までの記憶を再生していた。

 この世界にいると忘れっぽく、前半部分を覚えていないことが多い。

 この記憶再生が役だってこれだけのことが書けるのだ。

 でなければ――恐らく一階での出来事は忘れていただろう。


 二階にあがるとたくさんの部屋があり――各部屋には二三人ずつ集まって雑談している。

 ――霊は議論好きである――

 これといった仕事がないので、坊さんの禅問答は、学識を広め、頭の活性化につながるだろう。

 ――こんなところにいたら頭が腐る。


 ――この建物の中にはかなりの霊がいるようだ。

 一階で公的な交遊活動が終了したと判断した俺は――一挙に緊張感が解け、そろそろ女に手を出してもいいだろう――と、あちこちの部屋を覗き歩いて、女を捜し始めた。

 ――猛省――


 しかし――どの部屋を覗いても女はいない。

 男ばかりである。

 最後の部屋に望みを託して覗いてみると――、


 ――い、いるではないか!


 黒い制服を着た女子高生が何人か、しきりに話しこんでいる。

 俺はすぐさま――机にもたれ掛かって話しに熱中している少女Aに絡みついていった。

 あまり器量の良くない少女だったが――なにぶんにも時間がない。

 ――このさい誰でも良かった。


 「な、なに!?……何なのよ!」


 と言って、いきなりむしゃぶりついて来た――このエロ男に対して、慌てふためいて抵抗した。

  俺はうしろから組みつきながらも――ほかの女の子を物色することは忘れなかった。


 ――そのなかに一人だけ可愛い女の子がいた。

 高一くらいだが身体〈からだ〉つきは発達しているようだ。


 ――ちょっとロリコンっぽくみえるが、まあいい――


 一応、こちらがだめだった時のために目をつけておいて――暴れている女への総攻撃をかけた。


 ――だがここで、思わぬことを誘発してしまった――


 俺の行動が――女の子の周りにいた男子高生の性欲に、火をつけてしまったらしい。

 お祭り騒ぎのように――あちこちで絡み合いが始まった。

 しかし、ほとんどの女子はイヤがって逃げてしまった。


 仕方ないので――捕まえている子と遊ぼうと思ったが???


 いつの間にか男子に変化〈へんげ〉している。

 ――霊のよく使う手だが、身体を変化させたらしい。

 女が男に化けることがよくある。

 ――俺の凸は一気に萎〈しぼ〉んでしまった。

 こうなってはさっきの可愛い女の子を探すしかない。

 

 ――見つけた!――


 よく見ると――ほかの男の子に不埒なことをされている。

 かわいそうに身体を丸めて抵抗しているではないか。


 ――俺は助けてやることに決めた。


 俺は男子とのあいだに割ってはいり――少女を抱きかかえるようにしたのだが――両手が胸にまわってしまった。


 じゅうぶんな感触があったので――俺はマッサージをしてやることにした。


 男と女はもつれ合って――ベッドの上に勢いよく倒れ込んだ。


 さらにスカートの上からマッサージする。



 少女は様々な動きが重なって――たまらず床に投げ出されてしまった。


 その拍子にスカートがめくれ上がってしまったので――そのあたりも入念にマッサージした。


 ――こうなると――総攻撃開始だ。


 

 なおも濃厚なマッサージをしていると――女の子は何を思ったのか――不意に目を開き――恥ずかしがりもせずに――俺の目をしっかりと見つめて微笑んだ。


 俺と彼女の気持ちが一つになったのだろうか?

 ――確かに一瞬でもこの子に心を奪われていたのは事実だ。

 男と女の間に歳など関係ない。


 ――心を洗われるような少女の笑顔であった――



 ここにいたってゲームオーバーとなる。

 ――あっという間に――現実世界へ帰っていた。

 彼女はなにものだろうか?――姫ではないとおもうが――たまたま巡り会っただけなのだろうか?

 ふつう逃げることもできたはずなのだ。

 現実世界では女の子が男から逃れることはなかなか難しい。だいたいどこでも女の子・女性が殺されている。

 しかしこの世界では――するりと抜けたり、一瞬で消えたりすることが出来るのだ。

 でも逃げなかった。

 最初から俺に好意を持っていたのだろうか?



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