ガ島奪還上陸作戦《仮空》
@shigeru000furuse
第1話 闇に潜みし龍の群れ
――昭和一七年――南太平洋の楽園――
グアムから南東方向へ下って約一〇〇〇キロ。
ニューギニアからは北東方向へ上って一五〇〇キロ辺りにあるトラック環礁――。
海軍名ではトラック泊地と呼ばれた美しい環礁である。
現在はチューク諸島と呼ばれており、やはり真珠の首飾りのような美しい環礁のなかに、大きな島々が点在している。
ここはかつて日本海軍の根拠地となっていて、米軍の空襲によって多くの船舶が沈み、現在のダイビングスポットとなっている。
真珠の首飾りにも見えるその中には、六つほどの島があり、グルリと取り巻かれたサンゴ礁によって、太平洋の荒波を防いで中はいたって穏やかな海面を保っている。
この美しい海にもきな臭い臭いが立ちはじめていた。
ラバウル攻略――珊瑚海海戦と慌ただしい戦闘はあり、ポートモレスビー攻略という課題は残っていたものの、まだ前哨戦のようなもので激烈なといえるほどの戦いには至っていなかった。
ところが米軍は反抗の機会をうかがい着々と準備を進めていたのだ。
【昭和十七年(一九四二年)八月七日〇七〇〇辺り】
〈ヤマトホテル〉――戦艦大和 士官食堂――
山本は参謀長の宇垣
一礼して着席したのだがどうも顔が爽やかではない。
「どうした?」山本が尋ねると――、
『飛行場施設中のガダルカナルに米軍が上陸しました。目下、陸戦隊が戦闘中とのことです』
「ほう――ガダルカナルがか……」少し顔を曇らせ
ガダルカナルに基地を設けてオーストラリアとアメリカとの補給連絡を断ち切る――という方針は海軍内部で決まったことであり、その後のフィジー・ニューカレドニア作戦への布石であった。
どうやら見つからないようにコソコソと造っていたのだが、敵も馬鹿ではなかったらしい。
――それもそのはずで、少し上にあるツラギ島(フロリダ諸島)のオーストラリア軍の基地を占領したので見つかるのは当然であった。
そして今回――同時刻、午前四時ちょうどにツラギの水上機基地が攻撃され、ガダルカナルに、海兵隊一〇〇〇〇名が上陸したのである。
山本は――さて、これはたまたま鞘の当て合いのような偶発戦であるのか、それとも本格的な作戦であるのか……判断に迷うものであった。
――さて、どうなるものか……?
その日の夜――山本五十六は、艦長高柳儀八と囲碁を指したあと、長官室にもどり、ゆるゆるとワイングラスを傾けていた。
――その時急にめまいがして部屋がグルグル回りだした。
〈おかしい――俺はこんなワインごときで酔うほど弱くはない〉
とはいうものの、一向に体が言うことを聞かない。
――そして失神した。
――ここはどこだ?――
すると、暗がりの中――眼前に鎧を纏った武将が立っていた。
「お前の身体をしばし貸してもらおう。おぬし、越後長岡の出身であったな。まあよい。お前に戦は無理だ。少し休んで、予の下知をしばらく学んでおれ!」
スーッと意識が遠のいていった。
朝、眼が冷めたがどうにも自分の体が自分の体ではないように感じた。
〈昨日見たのは上杉謙信公だったのだろうか〉
〈しかし……どうも……体が乗っ取られたような気がする〉
山本は身体が乗っ取られているので意識はあるもののどうにもならず、 知らぬところで作戦立案、軍艦移動・終結編成がなされていた。
そして山本五十六(憑依した上杉謙信の霊)は『ガ号作戦』を発令した。
【集結作戦艦艇】
トラック泊地に、大和を旗艦とする連合艦隊総勢(一三五隻)の大艦隊が集結した。
連合艦隊の総力を上げてかき集めた――その陣容は次のとおりである。
〘戦艦部隊〙――大和、武蔵、長門、陸奥、扶桑、山城、比叡、榛名、霧島、金剛、
伊勢、日向合計十二隻。
〘重巡〙(重巡洋艦) ――高雄・鳥海・愛宕・摩耶・妙高・那智・足柄・羽黒
衣笠・加古・鈴谷・利根 の十二隻。
〈青葉・古鷹・熊野・筑摩はサボ島沖の戦いで沈没大破損傷で帰投〉
〘軽巡〙(軽巡洋艦)――天龍・龍田・球磨・多摩・北上・大井・木曽・長良・五十
鈴・名取・鬼怒・阿武隈・川内・神通・那珂・夕張の十六隻。
他〘駆逐艦〙――九五隻――多いので詳細略です。
〈ちなみに日本海軍では重巡・軽巡という呼称はなく、一等巡洋艦(重巡)・二等巡洋艦(軽巡)と言い表していた〉
戦闘艦だけで一三五隻の大艦隊が参加した。これに油槽艦・輸送艦などの支援艦艇などを含めると、大小合わせて二〇〇隻を超えている。
上杉謙信は黄泉の国より現世の戦争のことを
それは日清・日露の会戦から始まり日中戦争に至るまで、人間よりも詳しい。
英米との戦いに至っても直接戦地へと赴いて戦況を把握している。
神霊体であるのでどこにでも行ける。実はミッドウェイにも行って惨状を眼前に見ているのだ。
もちろん第一次ソロモン海戦から第二次ソロモン海戦へと巧みに戦っていたが、ガダルカナルの奪還はいまだ成功していない現実もみた。
そこで戦局が危ういので、とうとう我慢できずに現実世界へと出てきたのだ。
【ガ島ソ海3号作戦要項】――ガ島ソロモン三号作戦概要――
そこで謙信の立てた作戦は以下の通りである。
〈わかりやすいように便宜上、主力打撃艦隊を『第一艦隊』とし、海峡封鎖艦隊を『第二艦隊』、別同艦隊を『第三艦隊』とする〉
主力部隊(第一艦隊)は戦艦十二隻・駆逐艦四十八隻など合わせて六〇隻が、ツラギ島(米名はフロリダ島)とガダルカナル島の中間にあるサボ島(丸っこい島)に隠れるように配置――。(グーグルアース参照して下さい)
海峡封鎖艦隊(第二艦隊)として――全重巡十二隻・軽巡八隻・駆逐艦二〇隻、合計四〇隻をもって、ツラギ島とマライタ島の中間の海峡に――敵艦隊の監視・この海峡の封鎖をする。――主戦海域の状況により離脱してきた敵艦隊の側背を突き遊撃戦を展開する。
別働隊(第三艦隊)として――軽巡八隻・駆逐艦十五隻、合計二十三隻でツラギ島のさらに外側にある〈マライタ島〉を時計回りに迂回――敵艦隊の退路を遮断する。
この戦隊は神風型、睦月型、吹雪型――最速三七ノット出る――より抽出する。これは隠密行動であり、絶対に見つかってはならず、遅すぎても早すぎてもならず。
我が主力の打撃艦隊に叩かれ戦場を離脱し始めた頃合いに、敵の退路を遮断する作戦である。
もし万が一主力艦隊が甚大な損害を出した場合(敗戦)には、敵艦隊の疲弊したところを狩る任務も帯びている。
つまり――勝っても負けても殲滅――逃がさない。
敵艦隊を葬り去るか反転退却させなければ、こちらの上陸作戦を実行できないのだ。
【艦隊出撃】
先行部隊として別動艦隊(第三艦隊)が先に出航し、一路マライタ島を目指し、東方――南方と時計回りにガ島へ回り込むという任務で先行した。
海峡封鎖を任務とする第二艦隊は真っしぐらにツラギとマライタ島の間の海峡を目指した。
地図上で見ればマライタ島が上、ツラギ島が中、ガダルカナルが下になり、別働隊はマライタ島を時計回りに回り込んで、ぐるりとガ島の尻のほうから退路を断つという図になる。
封鎖部隊はマライタ島とツラギ島の海峡を通ってこれを封鎖する。
主力部隊――六〇隻はラバウル方面に進路を取り出航した。六〇隻とはいえラバウル近海ですべてが揃ったわけではなく、任務中の艦は現地より合流する手筈となっていた。
【大和――右舷甲板上】
山本の艦隊は少しづつ合流艦艇を受け入れながら定数の六〇隻になりつつあった。
ラバウルには寄港せず――現在、ブーゲンビル島とニュージョージア島の中間辺りに航行していた。
謙信は夜風に当たるため甲板に出ていた。あまりに考えすぎて頭が熱くなり、冷ましに来たのだ。
甲板を歩いていると――前方に木刀をもって剣道の
――えいっ――やっ――はっ――
語気鋭く、短いながらも腹に響くような激しい気合だ。
「苦労である!……なかなか太刀筋が良いではないか?」
草鹿が振り返り驚いたように飛び退き一礼した。
『は、我家は一刀正伝無刀流という剣術の宗家であります』
「ほう――さようであるか……」
「ちと聞くが……もし、敵艦が戦闘能力を失ったのであれば――それを奪っても良いのか――そしてそれは可能か?」
『は、可能であります。我軍は艦数が少ないのでそれも得策かと思います』
「そうか――」謙信は少し考えこんだ。
『おれのものはおれのもの。おまえのものはおれのもの――ですから』
そういって草鹿は
『捕獲すれば米艦の長所欠点もわかりますし、我らよりも優れた部分もありましょう。――さらに修理すれば我が艦としても使えます。将棋と同じ――とった駒を我らの駒として使えます』
「さようか……」
――こいつらのために少し敵艦を盗んでやるか――謙信は思った。
日本は貧乏国だから――泥棒するのもありか……。
たしかにそれも面白い……上手くできればだが……。
ガ島決戦艦隊は十一月十一日――各々距離と任務によって時間は違うが、それぞれが出向した。
【第一艦隊――ガ島戦域に向け航海中――速力十八ノット】
〈1ノットは1時間に約1.8キロ進む速さなので、ノット数の1.8倍がキロ時速となり、18ノットならば32キロくらいとなり、ノット数を2倍にして少し数値を落とす感じが私たちのキロ時速となります。ノット数×1.85=時速何キロとなります〉
昭和十七年十一月十三日一八〇〇――第三次ソロモン海戦が始まろうとしていた。
――大和艦橋――上杉謙信。
外見こそ山本五十六だが、中身は上杉謙信である。
時は十八時を過ぎたあたり――ようやくニュージョージア島をぬけ、ラッセル諸島を遠方に望む位置に達していた。
サボ島までは五十六海里――一〇五キロほどである。
〈サボ島:ツラギ島(フロリダ諸島)とガ島との中間にある丸っこい小島〉
謙信は海軍の暗号をあまり信用していなかった。
さすが越後の猛将――しかし一般には知られてないが、頭脳明晰な智将の側面もある。ただ単に『義』のみを追いかけていたわけではない。
これまで米国との戦争になって、いささか腑に落ちないことがあった。日本海軍のやることなすこと――すべてが敵に読まれているのだ。
偶然ですめばよいが、ことは重大である。
謙信もそのことは案じていて、取り越し苦労なら良いが――そうでなければすべての作戦・戦略自体が立ち行かなくなる。
これまで多くの将官に接してきたが――どうも秘密とか機密に関する感覚が鈍いように感じた。
――生ぬるい!――
戦国時代の非情さから考えて、なんとも好きになれないのだ。
――とはいえ予はこの時代にとっては客人に過ぎない。少しは我慢するか――そう謙信は思った。
〈海軍が情報ダダ漏れである――と気づいた時期がどのあたりであるかはわからない。ひょっとして最後まで騙され続けていたというのだろうか?一度、陸軍が海軍の暗号を解読し、海軍側に注意喚起したことがあったが――予ならば、そんな軍隊とは仕事はしたくない〉
【一九〇〇、サボ島沖侵入】(ひときゅーまるまる・19時00分)
――二〇〇〇(二〇時〇〇分・ふたまるまるまる)主力艦隊サボ島沖に戦列展開を開始する。
山本〈謙信〉の乗る大和はサボ島の西に展開し、戦艦一二隻は横一線に砲列を
戦艦部隊の前には中軍として重巡八隻が布陣し、突撃部隊として駆逐艦五〇隻が編成五個戦隊に別れ待機した。
遊撃隊としてサボ島の南から
敵艦隊はガ島の玄関口を守るかのようにすでに布陣していた。
ここはツラギ島・サボ島・ガ島に囲まれた内海のようになっている。
ここが複数回日米艦隊同士が激突――死闘を繰り返した死の海である。
この時、戦艦ワシントン・サウスダコタ他、重巡六隻、駆逐艦二六隻を展開していた。
〈もちろん日本海軍ではこの新鋭戦艦の存在は知らない。性能諸元などもまったくわからない。同様にアメリカ海軍も大和の存在は知らなかったものと思われる〉
――史実では戦艦二、重巡五、駆逐艦一二隻と少ないが、おそらく山本〈謙信〉に成り代わってからの動きで、暗号から大きな動きを察知し、ありったけの戦力を注ぎ込むものと思われる――
二〇四四(二〇時四四分)山本〈謙信〉は全艦隊に対し、
――全軍突撃せよ――の大号令を発した。
前衛に展開していた五〇隻の駆逐艦部隊に突撃を開始した。
これは早い話が囮部隊であり、戦艦巡洋艦の砲撃を助け探照灯で照らし目標を視認させる。そして敵の邪魔し撹乱させるのが主任務である。任務の八割方がそれであり、あとの二割で隙をついて攻撃を許可された。
駆逐艦隊は六隻の戦隊に別れ、蛇行を繰り返しつつ各個の敵艦に迫っては離れ迫っては離れを繰り返した。けっきょく最終的には米艦隊を包囲しグルグルと回転し始める結果となった。
敵戦艦・巡洋艦たちは日本駆逐艦が、あまりに忙〈せわ〉しく動き回るため主砲では対応できず、一五センチあるいは一二センチ以下の砲を使い砲撃した。
隙を見てやる気のない日本駆逐艦の砲撃や雷撃があり煩わしかった。
しかし、日本艦隊の砲火は凄まじかった。隻数による圧倒的な火力の差であった。
二三時頃になると被害を受け戦闘続行不可とみなされた艦艇が一隻また一隻と離脱していった。
そのころ第一別動艦隊司令の高雄艦長朝倉豊次は、ツラギ島とガ島との海峡付近に七九隻の艦艇を塞ぐように配置した。あり一匹這い出る隙間もない。
二三一二(二三時一二分)前方に数隻の敵艦らしき艦影を認めた。
朝倉は無線で合言葉を発し――沈黙のままだった該当艦に対し攻撃命令を発した。
戦艦ワシントン・サウスダコタに対し複数の砲弾が当たり始めた。
そのうち一発がワシントンの艦橋に直撃した。その当たりから艦の動きが鈍くなり始めた。
サウスダコタも満身創痍になりつつあった。
撤退を開始しようにも完全に包囲されていた。
日本艦隊は降伏勧告を敵指揮官に打電した。
圧倒的な戦力差であった。日本軍はこれほどまでの艦艇数を隠し持っていたのだ。
では何故出来なかったのか?
おそらく重油が足りなかった――これに尽きると思う。
戦艦は――今日の感覚では外車並みに――燃料を食うのであり、大和級ともなれば連合艦隊のなかでは、天文学的な量であったと思う。
しかし、がんばればそれだけの燃料を確保できたかも知れないし、出来なくてもせめて敵よりも三倍ほどの戦力があれば勝てたかも知れない。
当時の海軍はむだな自信過剰体質であったと思う。
予が思うに――戦力は敵の十倍で当たれ――と常々思う。予が世界征服を行おうとすれば、なるべく損害を減らし、楽をして勝つ。戦は世界征服まで限りなくあるのだから、いちいち戦力を消耗していては、頂上に登るまでにくたばってしまう。
戦力がドローであるなら半数の損失は免れない。
例えば――ボクサーが殴り合い試合が終わったとしても、お互いヘトヘトでリングから下りれない状態――そんなのではいずれ撤退することになる。当時の物量を考えれば、撤退するのは日本軍のほうである。
また情報に関しても、日本海軍はかなり疎〈うと〉かったというか、軽んじていたのか、どうでもいいような電信も打っている。
山本五十六がブーゲンビルに視察にいくことも正確な日時を送りつけている。暗号はまんまと解読され撃墜された。
山本が行ったからといって戦局が変わるわけではなく、とくに電報を打つ必要はない。輸送機が着いたがなぜか山本長官が乗っていた。それで良いではないか?
恐ろしく間抜けな奴らだと思う。
山本は自ら死地に追いやったという考えもあるが、それならば最初からガダルカナルへ行けばよいではないか? 死に場所ならいくらでもある。
おっと、失礼……また熱くなってしまった。海軍の司令長官様ともなれば、国運に深く関わってくるので、批判されるのは当たり前である。歴史的な人物はそういうものである。
――艦隊戦はもう少し掘り下げ長文にしたいと思う――
【編集部:柿田角蔵愚考】
――勝ちたいと思ったらこれくらい全力でやらないとダメではないだろうか?
筆者は臆病なので一〇対一で戦い――そして殲滅する。六対四で戦い勝ったとしても敵の半数近くは逃がしてしまうかも知れない。――それならば大兵力で敵を包囲し殲滅する。
日本は短期決戦を志向していたが――気持ち的には一〇〇年戦う気持ちがあったほうが良いと思う。そのほうが自ずと慎重になり無駄な戦いをしない。
日本海軍は艦隊決戦を志して日々訓練に励んでいた。だったら決戦はいつやるのだろうか?
ちまちまと小さな決戦を繰り返しても意味ないのではないだろうか?
レイテ決戦でもようやく頑張ったが、艦船数、物量で押されていたし、いろいろとヘマをやらかした。
あまり一方的に個人を責めるのは良くないが、上がやっぱりダメだったんじゃないだろうかと思う。
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