第3話

柚が麗奈と天音のお誘いにより、生徒会メンバーの一人となった翌日。


 午後15時40分。放課後。

 日差しがあたたかく、心地よい空気の春の中、今日も生徒会室ではお仕事続行中。

 麗奈も天音も、資料整理をしている。

 期限が迫っているので、いつもより少し急ぎ気味で、手を取り合って協力している。

 ……まぁ、時には言い合いにもなるけれど。


 すると、足音が近づいてきて、ドアが何も合図無く、勢いよく開いた。

 聞こえてきたのは、元気で勢いある明るい挨拶。

「こんちはー!!」

「失礼します」

「こんにちはー!」


 入ってきたのは、陽葵、羽月、咲希だ。

 三人もまた、生徒会のメンバーである。

 元気よく、一際明るい声で挨拶したのは七瀬陽葵。

 髪は短めで、金髪がキラキラ光っている。

 ほかのメンバーよりも、少し小柄でかわいらしい。

 黄色い紐リボンを付けていて、カーディガンは明るい茶色。髪色が金髪なので、より映えている。


 続いて入ってきたのはボーイッシュめな女の子、双葉羽月だ。彼女も陽葵と同じく一年生。暗い緑色をしたショートカットの髪。ジト目でクールさを感じる。ワイシャツにパーカーを羽織っていて、カジュアルだ。


 最後に入ってきたのは、睡蓮咲希。彼女は陽葵や羽月にとっては先輩の、二年生だ。

 天音と同じクラスで、かなり仲良しの親友である。髪は明るいピンク色のロングヘアでよく目立っている。ところどころ跳ねているのが元気を象徴していて、かわいらしい。アホ毛も特徴的だ。

 青いベストを着ていて、ピンク色の髪と相まって、似合っている。


「こんちはーっ!」

「こんにちは!」

 麗奈と天音も続けて三人を見て挨拶をする。

 これでメンバー全員が揃った。


 生徒会長・麗奈、副会長・天音、メンバーの咲希、陽葵、羽月。そして、途中から入った柚。

 普段はそれぞれやることを分担して作業している。

 時々みんなで課題をやったりして、ワイワイすることもあり、かなり平穏だ。

 天音、咲希、羽月は勉強ができる方だから、麗奈や陽葵に教えてあげながら解いている。

 まぁ、麗奈は三年で、誰も習っていない内容の課題だから全く進まないけれど……。


「陽葵、ちゃんとノックしなきゃだめだよ」

「うぇ〜細かいなぁ〜」

「細かくないだろ。常識的なことだよ」

 陽葵と羽月のこういった言い合いも日常的だ。

 陽葵はよくボケる。羽月をツッコませたいのか何なのか……とにかくよくボケる。

 普通に天然なだけかもしれない。


 そして羽月は、陽葵のボケにキレよく的確にツッコむ。

 これは、他のツッコミ役である天音も咲希も、顔負けの的確さ。

 ちなみに、天音・咲希・羽月は、ツッコミ三銃士と呼ばれている。

 麗奈がふざけて勝手につけた。


「まぁまぁ〜!いいってノックぐら〜い!」

「よくはないでしょ」

 軽く笑い飛ばす麗奈に、天音が即ツッコミ。

 漫才ができるレベルの速さ。

 ツッコミとなると、天音は頭の回転が早くなる。


 ……と、そこへまたドアが開いて。

「失礼します……」

 柚が入ってきた。今日も学校で疲れた心を落ち着けに来たのだろう。

 でも、今日は他のメンバーもいる。

 知らない人ばかりだ。

 極度の人見知りな柚にとっては……怖い。


「すっ、すすすすみませんーっ!」

 部屋を間違えたか?ぐらいの焦った勢いで部屋を飛び出していく柚。


「まっ、待って!!」


「えぇ〜こちら!昨日から生徒会に加入した、星野柚でぇ〜す!」

 麗奈は手を柚の方に向けて、名前を紹介する。

「他己紹介すな」

「んなに?タコ?」

「他の人って意味!!!」


 またもや麗奈と天音の言い合い。

 やはりテンポがいい。咲希たちメンバーも既に見慣れているため、微笑んであたたかい眼差しで見ている。


「あ、あの……よろしくお願いします……」

 視線を下に向けたまま挨拶をする柚。

 まだ緊張は解けないらしい。


 それはそうだ。人見知りの子が初対面の人と話すなんて、とても難しいことなのだから。

 ついオドオドしてしまう。


「あれー!同じ一年生じゃーん!よろしくぅ!!」

 元気よく、他の人と話す時とも態度を変えずに接してくれる陽葵。


「よろしくねーっ!てかちょーかわいーね!?」

 明るく接しつつ、穏やかな柚の姿に心の中で"かわいい"を連呼する咲希。


「よろしくね」

 フッと頬をゆるめ、目を細めて優しく微笑んでくれる羽月。


 個性的な三人だけど、いい人だ。

 柚にはそう思えた。


「……でも、選挙にいたっけ?」

「ぁ……そ、それは……っ」

 羽月からの疑問に、困ってしまう柚。

 この状況を、どうやってみんなに伝えればいいのか……。


「私の推薦だよっ!」

「えっ?」

 笑顔で切り出したその言葉に、三人はびっくり。

 柚も同時に少しドキッとしてしまう。

 "推薦"……?


「みんな仲良くしようねーっ!」

「は〜い!!」


 さすがは生徒会長。

 一瞬で収まった。

 深いことや柚が話されて嫌なことは一切言わない麗奈。

 そしてそれを承知ですぐに柚の存在を受け入れてくれるメンバーたち。

 まさに一致団結そのものだ。

 柚は、この展開にとても安心しつつ、またも尊敬した。


「緊張しなくて大丈夫だよ!みんな優しいから!」

「は、はい……!」

 麗奈にそう言われた時には、既に少しだけど安心していた。

 やっぱり生徒会室はあたたかい。

 そう思えた瞬間だった。


「よしっ!じゃあ自己紹介でもするかぁー!」

「いやいや他にすることあるでしょ」

「でも初めにお互いのことを知ることが大事でしょっ?」

「ま、まぁ……それはそうだけど……」


 珍しくツッコミに正論で返してきた麗奈にびっくりして、それ以上ツッコむ言葉が続かなかった。

 天音が折れるのも、珍しいこと。


「んじゃ私からっ!二度目になっちゃうけど……」

「私は如月麗奈っ!誰がどっからどー見ても生徒会長っ!よろぴくぅー!」

 人差し指を自分の頬に当ててきゅるる~んとぶりっ子ポーズ。

 

「”どー見ても”は余計でしょ」

「”どー見ても”だけ前言撤回してください」

 やり切ってウキウキな麗奈にふっかかる天音と咲希の真顔でのツッコミ。

 まぁ確かに、こんな超ド派手な生徒会長は前代未聞だが。


「あーもう!せっかく自己紹介したのに否定すんなー!てかゼンゲンテッカイってなに!?」

「さっき言ったことを取り消してっていう意味です」

「ふぁ!?なんで!?何その言葉!私そんなの知らないっ!」

「いや語彙力増やせよ」

「むぅ……」


 咲希と天音に好き放題ツッコまれる麗奈。少し楽しそう。

 麗奈は生徒会長であるし、三年生であるが……勉強は大嫌いだ。

 四字熟語もことわざも「……は?」と沈黙が起こるレベル。

 天音に「勉強教えてー!」とよく言ってくる麗奈だが、天音はまだ二年生。

 習っていない内容なんてわかるわけないのに、それをさらに教えるなんて無理だから、いつも突き返して断っている。

 どうしようもないので、麗奈はテストを諦めることにした。

 ……他に手段はある気がするけれど。


「もぉ!みんな冷たいよぉ~!」

「天音ぇ!自己紹介してぇ!ちゃんとしたやつ言ってよ!?」

 副会長の天音に振る麗奈。自己紹介で場を和ませてほしいと任せたみたいだ。


「え、あぁ……」

 あまりノリ気がない天音。

 少しダルそうにしながらも返事をする。


「私も2回目になるけど……」

「白海天音です、副会長です!こののんきで雑でサボりがちな生徒会長のサポートをしています!よろしくお願いしますっ!」

 ダルそうにしていたのに、急にパッと明るい笑顔になって、終始微笑んで自己紹介をやり遂げた。

 自分ではうまくいったと思っていた天音だったが……。


「おいこら!!!」

 麗奈が怒った口調でこちらを睨んで叫んでいる。


「ん?なに?」

「”なに?”じゃなくて!今めっちゃディスったな!?」

「色々悪い情報入ってきたんですけど!?」

 訳も分からずポカンとして丸い目を麗奈に向けて問うと、さらに麗奈を怒らせてしまった。


「だって事実だもんっ」

「ぐぬ……っ」

 腕を組んでぷいっと目を背けてツンと言葉を放つ天音。

 今度は麗奈が言い返せなくなる。


 天音の言う通り、麗奈はサボってばかりだ。

 天音がお手洗いに行って、一人になったスキに居眠りをしていたり(なんならみんなの目で堂々と居眠りすることもある)、「だるぅ~」とか言って全く動こうとしなかったり、「これでいーや」とテキトーに進行したりと……。

 かなりのマイペース。


 天音はしょっちゅう世話を焼いている。麗奈の方が一個先輩なのに。

 不思議すぎて、違和感があって、なんだかヘンな感じだ。


「あぁぁぁ!咲希からまた自己紹介してぇ!」

 どうにもできなくなった麗奈は再び司会進行。


「咲希でーす!よろしくお願いしまーす!」


「羽月です、よろしくお願いします」


「陽葵でぇーす!よろしくお願いします!!」


 さすが後輩たち。とてもスムーズに自己紹介をしていった。

 ……いや、これが普通なのだろうけど。

「じゃ!最後、柚っ!」

 柚に笑顔を向けてくれる麗奈。

 その瞬間ピクッと震えてしまう。


「え、えぇっと……」


「……星野柚です……!よ、よろしくお願いします……!」

 緊張しながらもちゃんと前を向いて挨拶できた。

 柚にとっては勇気を出して頑張ったのだ。精一杯。


「よろしくー!!」

 そして、真っ先に返してくれたのは麗奈。

 こういうところはさすが先輩、と言いたいところだ。


「同じ学年だしさ!仲良くしよ!!」

 同じ一年生の柚に、元気いっぱいに話しかける。


「あ、ありがとうございます……!」

「あはっ、お礼なんて言う必要なくなーいっ?」

「友達、だね」

「……っ」

 陽葵にそんな風に言われたのがすごくうれしくて……でも、どう返したらいいかわからず、反射的にお礼を言う柚。

 陽葵はまた明るく返してくれる。

 柚は、自分にも態度を変えることなく接してくれることがうれしいのだ。

 これまでは気を遣われてばかりで、どこか距離和感じたり、透明な壁が見えていたから。

 でも、ここ……生徒会室は違う。

 空気も、雰囲気も重くない。

 教室は狭く重い。

 生徒会室は広さはもちろん教室よりも狭い。でも、あたたかいのだ。

 きっと、この生徒会メンバーたちのぬくもりや、雰囲気の温度だろう。

 体だけでなく、心の内側まで、ぽっと灯が灯るようにあたたまっていくのを感じる。


 そして、羽月の”友達”という言葉を受けて、これを完全に実感する。


 ここは、”居場所”だ。


「うぉ~珍しいねぇ~羽月の口から友達とか出てくるの」

「うるさいな……いいだろ別に……」


「あっ!照れてるっ!?」

「照れてない!」

 そう言いながらも、羽月の頬はほんのり赤く染まっている。

 ツンデレだ。


「あ、あの……」

「私ってどういうお仕事をすればいいでしょうか……」

 そうだ。

 柚は先生の許可もなく麗奈たちが推薦……というか、守るために作ってくれた場所、それが生徒会室。

 でも、言ってしまえば定員オーバー。

 することはまだ残っているのだろうか……。

 ただいるだけじゃ迷惑……先輩たちの役に立ちたいと思い、口を開いたのだ。


「ん~そうだなぁ~」

「あ!じゃあ私の補佐でっ!」

 天を仰いで、少し考えた結果が、”麗奈の補佐”。


「はぁ!?私が十分補佐してあげてるんですけどぉ!?私だけで十分でしょ!?」

 やはり黙ってはいられない天音。

 いつも麗奈のそばで、お仕事のお手伝いをしているのは天音なのだから。


「あらあら~まぁた嫉妬してるよこの子……♡」

「嫉妬じゃない!!」

 またもやすぐに顔を赤く染める天音。

 隠した本音がバレバレだ。

 この子も完全にツンデレである。


「なんなら全員で補佐してますよ」

「ほんとだよ!!全くもう……いっつも迷惑ばっかり……」

 咲希が言った言葉に乗っかってさらにぷんぷんする天音。

 毎日、相当な苦労をしているのだ。


「はぁ~わかってないなぁ~」

「迷惑だけじゃないもんねぇー!ちゃんと生徒のこと考えてるもんねぇー!」

 ニヤニヤしながら誇らしげに語る麗奈。

 確かにそうだ。 

 きっと、柚を生徒会に薦めたのだって……。


「そ、それは知ってるけどさ……」

 再び目をそらして少し悔しそうにムッとしながら答える天音。


「はい認めたぁー!ちょろいなぁ♡」

「あ?」

 表情をコロコロ変えていく麗奈に、一周回ってイライラしてきたらしく、鋭い眼差しで麗奈を睨みつける。


「あ、天音ちゃん!一旦落ち着こ!?」

 天音のその様子を見た咲希は即ストップをかける。 

 ひょっとすると、一番世話を焼いているのは咲希かもしれない……。


「柚ちゃんには手が足りないところを手伝ってもらうのがいいんじゃないですか?会長のそばにいてもらうのが大事かもしれません」

 羽月が最も冷静に判断して提案する。

 ……いや、羽月以外に冷静な人はいない。

 クールキャラ、助かる。


「だよね!?ってことでよろしくー!!柚っ!」

「えっ、え……っ!」

 目を輝かせながら嬉しそうに柚を見つめる麗奈。

 だけど、まだ驚きと戸惑いを隠せない柚。

 それはそうだ……。

 まだ会ってから一週間も経っていなくて、こんな尊敬していてかっこいい先輩といられるなんて……嬉しさと、ドキドキと、不安が混じっているような感情だ。


「あまねっち~嫉妬すんなよぉ~?♡」

「しないし!!」

 まだまだ”れなあま”の漫才という名のイチャイチャ続行。

 麗奈がからかってくる限り、止まる気配はない。


「もう……!」

「えへっ」

 少し怒ったような……でもどこか嬉しそうな天音の横顔を見ながら、思わず微笑んでしまう麗奈。


「じゃ、こっからは新たな生徒会メンバーでやってくということで……」

「頑張ってこー!!!」

 思い切り右手を上げ、これからの活動に張り切るような決意を向ける。

 これでこそ生徒会長だ。

 学校や、生徒のために頑張るこの姿……全生徒の憧れ。


「サボりすぎないでくださいよ……?」

 心配そうな咲希の静かなツッコミ。


 またそこから新たな楽しい会話が生まれる。

 彼女たちの言葉の宝庫は無限だ。

 話したいことがどんどんと湧き上がってくる。


 今日もまた、楽しく笑顔で話し合いながら。

 

 ボケとツッコミを交わしながら。


 お互いを支え合いながら、活動を活発にこなしていく。

 

 この夢が詰まっていて、大切で宝物である生徒会室の中で。

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