借りたいのは、君じゃなくて?(1)

体育祭前日。校庭はテントとロープで埋め尽くされ、どこを歩いても先生に呼び止められる地雷原になっていた。

 そんな中、俺はリストを片手に、教室から体育倉庫へと小走りに移動していた。


「ちょっと、そこの男子!」


 背後から飛んできたその声に、俺の足がピタリと止まった。

 振り返ると、案の定、あいつがいた。


「なんだよ、由梨。手伝わないのかよ」


「ううん、見てただけ。……あ、違った、監督してたの」


「何様だよ」


「借り物競走の神様」


 謎の肩書きに呆れながら、俺は紙を突きつけた。


 "借り物競走リスト・赤組"と印刷されたそれを見て、由梨が鼻で笑う。


「“足の速い人”とか、“背の高い人”とか、よくあるよね」


「“めんどくさい人”ってあったら、おまえ連れてくのにな」


「失礼な。私はせめて“話が長い人”くらいにして」


 からかってるのか、素なのか。

 この女は、いつもその境界線を曖昧にしてくる。


「明日の借り物、何になるか分かんねえな。生徒会の奴ら、妙なセンスしてるし」


「去年“彼氏にしたい人”ってあってさ、阿部先輩が呼ばれてめっちゃ照れてたんだよね」


「やだなそれ、地獄じゃん」


「私なら“おもしろい人”で拓海連れてくかな」


「それ褒めてんの?」


「さあ、どうでしょう」


 言葉が軽いようで、時々重さを持つ。<br>

 だからこそ、俺は反応を迷う。


「明日、借り物競走で“自由に選んで”って出たら、呼ぶ?」


「……おまえが目に入ったら、呼ぶかもな」


 そう答えた俺に、由梨はほんの少しだけ眉を上げた。

 驚いたような、楽しんでるような顔だった。


「ふーん。じゃあ、期待しとこ」


 何に?とは聞けなかった。

 体育倉庫の鍵がカチャリと開いた音が、変な余韻を断ち切った。

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