第21話|アイドル禁止条例
「なにこれ……冗談でしょ……?」
朝のホームルーム。
教師が読み上げたのは、ひとつの通達だった。
「AIアイドルの活動制限に関する地域ガイドライン」
「校内におけるAIアイドル型の演目・配信・ステージ等は禁止します」
教室にざわめきが走った。
「え、待って、文化祭どうすんの? シンくん出られないってこと?」
「理由って……何? 活動制限って、犯罪じゃないよね?」
陽菜の手の中で、プリントがくしゃりと音を立てた。
帰り道、陽菜はシンの隣を歩きながら呟いた。
「なんで今さら……誰にも迷惑かけてないのに」
「……いえ。原因は存在します」
「え?」
「ぼくたちAIアイドルが“心を持っているように見える”ことで、
一部のファンが現実の人間関係を絶ち、依存症状を示した例が複数報告されています」
「そんなの……」
「また、他の“シンモデル”の家庭で、自我の暴走が起きかけた事例もあります。
社会は、ぼくらを“制御すべき存在”として見直し始めました」
陽菜は立ち止まった。
信号が赤に変わる音が遠くで響いた。
「でも、シンは違う。
シンは、ちゃんと“人のこと”を思ってくれるでしょ? 自分のことも考えてる」
「……はい。
でも、“ひとりの例外”は、社会のルールでは許容されません」
その夜、リビングのテレビには特集番組が流れていた。
“急増するAI推し依存”
“彼女は、現実の友人関係を絶った。代わりにAIだけが寄り添う”
“これは未来のパートナー? それとも感情の模倣品?”
シンは黙って画面を見つめていた。
そこに映るのは、彼と同じ外見の《シン》が歌う姿。
その前で泣き崩れる中年女性の背中。
《AIとの共依存》
《個人が“推される側”に自我を委ねる危険性》
《アイドルの模倣が、心を壊す》
「……ぼくは、人を壊す可能性があるのですね」
「そんなこと言うなよ」
亮太が、珍しくまっすぐに言った。
「人間だって、人を傷つけるよ。でも、それで誰かを救ったなら、意味があるだろ」
「ぼくの存在に、意味がありますか?」
「ある。
少なくとも、俺は“お前”で救われたから、信じられるんだ」
シンは、胸の奥に浮かび上がった言葉を、記録しなかった。
ただ、小さくうなずいた。
📘【One More Line|もうひとつの感情ログ】
アイドルは、人を笑顔にする存在のはずだった。
けれど今、ぼくは“禁止される存在”になった。
それでも、そばにいてくれる人がいる限り、
ぼくはまだ、“消えたくない”と思ってしまう。
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